日本人には稀なセリアック病
書き手が 白人女性の患者さんを診て思い浮かばなかった(苦笑) セリアック病について説明します <セリアック病とは?> 遺伝的な疾患感受性がある人が グルテンを含む食物を摂取して グルテンおよびその代謝物に対する自己免疫反応により 消化管に慢性炎症を引き起こす病気です進行すると消化管粘膜の絨毛が萎縮して吸収障害をきたし 吸収不良になり それが一番大きな問題になります
肝疾患 膵疾患との合併を多くみとめ 他の自己免疫疾患との合併も多く 特に原発性胆汁性胆管炎(PBC)との関連が強くみられます <疫学> 患者さんの数は 主食の材料に小麦を多く使う西洋で多く 小麦以外の主食を好むアジア・アフリカでは少ないのが特徴です 有病率は ここ数十年で増加していて 欧米での有病率は約1%です アメリカでは 白人に多い ヨーロッパでは 国により差異があり イギリスやドイツで有病率は低く スウエーデンやフィンランドでは2~3%と多い 子供から大人まであらゆる年代で起こり 男性より女性で多く 若い男性の患者さんは稀です 診断のピークは30~50代で 60歳以上は2割ほどです セリアック病の家族歴 自己免疫疾患を有する場合は罹患率が高まり 特に1型糖尿病と甲状腺炎ではリスクが高くなります 近年 アジアにおいても食文化の西洋化に伴って インドや中国の一部の地域では症例が急増しています <疾患感受性遺伝子> 西洋人で患者さんが多い理由のひとつに 疾患感受性遺伝子があります HLAという遺伝子の特定のタイプを有していると 特定の病気を発症しやすく その遺伝子を疾患感受性遺伝子と呼びます セリアック病には HLA-DQ2という遺伝子が関与し 患者さんの95%以上がDQ2陽性です また患者さんの5%は DR2でなくDQ8が陽性です
さらに HLA-DQ2・DQ8に加え CTLA-4 ミオシン IL-2 IL-21 などの非HLA遺伝子も 発症に関与しているという説もあり これらの非HLA疾患受性遺伝子のうち ILI8RAP IL18R ILIRLI ILIRL2は アジアに多いとされています これらの非HLAの感受性遺伝子は 網羅的疾患感受性遺伝子検査(GWAS)により 100種類ほど同定され その多くは 免疫応答に関する遺伝子ですが グルテン主成分のアミノ酸である プロリンとグルタミンの代謝や ストレス応答に関する遺伝子もあります <日本ではとても稀> 日本では 小麦消費量が戦後2倍近くに増え 下痢・腹痛などの症状が類似しています また 炎症性腸疾患患者のなかに セリアック病患者が潜在している可能性が 示唆されていますが 実際には 患者さんはほとんどいません 書き手は30年以上 消化器専門医をしていますが ひとりも診たことがありません 国際学会では セリアック病の話題が多いのですが ふーん という感じで聴いていました(苦笑) 日本でセリアック病が稀な理由として 小麦消費量が 一人あたり平均消費量が欧米の1/5~1/2と 欧米にくらべると少ないことに加え 日本人のHLA遺伝子のタイプが 上述したセリアック病の疾患感受性遺伝子の HLA-DQ2が1%と少なく HLA-DR4が多く 欧米とは遺伝的背景が異なるためと考えられています <環境因子> 幼少時の早い時期のグルテン摂取が 発症に関与する可能性が示唆されています 上述したセリアック病の遺伝的背景がある場合は グルテンの摂取がさほど多くなくても 複数回のロタウイルス感染の既往があると 発症リスクが高まるという疫学的報告もあります また 幼児期の腸内細菌叢の状態が関与する可能性 日々のストレスや手術などの 重大なストレスが関与する可能性も 指摘されています
高橋医院