睡眠異常と糖尿病
前回ご紹介したように 睡眠の量的・質的異常が 糖尿病の発症・増悪に関与することが 明らかになってきました まず具体的なデータを ご紹介しましょう <睡眠時間と糖尿病発症率の関係> 1日の睡眠時間が短いと 健康な人でも糖尿病を発症しやすくなります 7~8時間寝ている人と比べると ・6時間以下しか寝ていない人は 1.28倍 ・5時間以下だと 5.37倍 ・1年以上不眠が持続すると 1.7倍 それぞれ糖尿病になりやすい ・寝付けないために睡眠時間が足りない人は 6.7倍 ・途中で起きてしまうために睡眠時間が足りない人は 5倍 なりやすい 既に糖尿病になっている患者さんも 睡眠の異常があると糖尿病の状態が悪くなります 7時間程度寝ている患者さんに比べ それ以下の睡眠時間の患者さんは HbA1cの値が高い <睡眠の質と糖尿病発症率の関係> 睡眠時間の短さだけでなく 睡眠の質の低下も糖尿病発症に影響します 通常の睡眠パターンでは 一晩寝ている間に ノンレム睡眠(徐波睡眠)からレム睡眠へと連続する 約90分の周期が4~5回繰り返され 前半は深い眠りで 大脳を休息させる徐波睡眠が多く 後半は浅い眠りで 体を休ませるレム睡眠が多い 徐波睡眠は 全睡眠の20~25%ですが 脳をしっかり休めるために重要で 熟眠感が得られる質の高い眠りです この間は交感神経の活動が低下し 血糖も血圧も下がります この徐波睡眠を人為的に妨害すると 交感神経が活動し 血糖も血圧も上がってしまう 糖尿病の患者さんは40%程度が 不眠をうったえられるとの報告がありますが 睡眠の質が悪いと 血糖コントロールが悪くなることが 明らかにされています このように 健康人は 睡眠時間が短かったり睡眠の質が悪いと 糖尿病になりやすく 糖尿病の人は 睡眠時間が短かったり睡眠の質が悪いと 血糖コントロールが悪くなる 睡眠と糖尿病の関係は これまであまり注目されてきませんでしたが 糖尿病の患者さんが 睡眠時間や睡眠パターンを改善されれば 糖尿病の状態がよくなるかもしれない という新たな可能性を示唆するもので 非常に重要なポイントと思われます <糖尿病の状態が睡眠の質に影響を及ぼす> 糖尿病のコントロールの良し悪しが 睡眠の質に影響を及ぼす という 逆のベクトルからの報告もあります HbA1cが増悪すると 徐波睡眠の時間が短縮し それは動脈硬化につながる というのです この研究を行った大阪市大のグループは 糖尿病患者さんの血糖コントロールを行うだけでなく 睡眠の質を改善する治療を積極的に行うことで 動脈硬化進展が予防できると指摘しています <睡眠時間の不足 睡眠障害で血糖値が上昇する機序> では なぜ短い睡眠時間や徐波睡眠の短縮が 糖尿病の発症や増悪に関与するのでしょう? 睡眠の質的・量的異常により 神経内分泌系 自律神経系の活動が影響され インスリンの分泌が低下したり インスリン抵抗性の状態に なっていると考えられます 睡眠障害が持続すると 食後血糖が有意に増加し その際のインスリン分泌が有意に低下します インスリン抵抗性のリスクは 睡眠時間が30分短縮すると40%高まり 1時間増加すると10%改善するとの報告もあります また 睡眠不足により コルチゾル ノルアドレナリンなどの 血糖上昇作用を持つホルモンの分泌が増えることも 関与します それらホルモンの分泌を刺激する遊離脂肪酸が 早朝と深夜に増えることも明らかにされています 睡眠を誘導するメラトニンの検討もなされています 夜になるとメラトニンの分泌量が増え睡眠を誘導しますが 糖尿病患者さんでは 健康人に比べて夜間のメラトニン分泌量が少ないこと 健康人でメラトニン分泌量が低下すると インスリン抵抗性が増えること などが報告されており 糖尿病の発症にメラトニンが関与する可能性が 示唆されています 睡眠不足の食欲への影響も大きなポイントです 睡眠時間が減ると 食欲を抑制するレプチンの分泌が20%減り 食欲を増進するグレリンの分泌が30%増える との報告があります (レプチン グレリンと食欲の関係についてはこちらをご覧ください) そのために食欲が増進し さらに脂肪の多い食べ物を特に好んで摂取する傾向が 強くなるようです これに関連して 睡眠時間が6時間以下の人は 食欲増進脳内物質が多量に分泌され コレステロールや中性脂肪が高くなり肥満になりやすい 睡眠不足がある人はない人に比べて 肥満のリスクが75%も上昇するとの報告もあります このように 睡眠の異常によりインスリンの働きが低下するのみならず 睡眠不足による食欲亢進にともなう肥満が 二次的に糖尿病の発症・増悪に関わると考えられます 以上のことから 糖尿病の患者さんの睡眠状態のチェックはとても重要なこと が明らかになり もし異常が認められる場合 睡眠異常の治療により糖尿病の状態が改善する可能性 も期待できます 糖尿病で治療されている患者さんで 不眠や睡眠に関する悩みをお持ちの方は 是非とも主治医にご相談ください
高橋医院