ご先祖様から受け継いだ体質がアダになる?
日本人の高血圧と切っても切り離せないのが 塩分のとりすぎです 血圧が高くなるから 塩分を控えましょう! 患者さんは耳にタコが出来るほど 聞かされていることと思います <理想的な塩分摂取量> 書き手が医学生の頃は 目標とされる塩分摂取量は1日10gでしたが 2011年の国民健康・栄養調査では 10.4gまで低下しています しかし2012年に発表された 2022年までの国の目標値は 1日8g 日本高血圧学会の推奨では 1日6g未満 一方 世界に目を向けると 世界保健機構(WHO)のガイドラインでは 1日5g未満 日本人の塩分摂取量は 着実に減少してきているものの まだまだ理想には程遠いのが現実です では どうして塩分のとりすぎは 高血圧によくないのでしょう? その答えを得るには まずヒトと塩分の関わりについて 太古の昔にまでさかのぼって見る必要があります <ご先祖様の体は 塩分を欲した> ヒトの体の60%は水分で出来ていますが その1/3は 細胞を取り囲んでいる細胞外液です 細胞外液には ナトリウム(塩分)や塩素などが含まれていて その組成は海水にとても似ています 太古の昔 ヒトの祖先は海の中に住む生き物でしたから 海を懐かしんだのかどうか定かではありませんが 海から上がって陸に住むように進化したヒトは 自らの細胞の周りを海水で取り囲むような体を 作り上げました 下のグラフをご覧になってわかるように 細胞内液は カリウム(K)が主体ですが 細胞外液は 海水成分のナトリウム(Na)が主体です <塩は貴重品だった> しかし 塩分が豊富な海と異なり 陸では塩は大変な貴重品でした 給料を意味する英語のサラリーの語源は ソルトという話もありますし 昔は塩は貨幣の代わりとして使われたり ヨーロッパでは 塩山の争奪をめぐり戦争が起きたこともある 日本でも「敵に塩を贈る」という ことわざもあるくらいです ちなみに 旧石器時代のヒトの塩分摂取量は 1日1.5g程度でした そしてヒトが生きていくために必要な塩分は 1日1gです 1日1gの塩分があれば生きていける体に 陸に上がったヒトは進化したのです 海にいたご先祖様が陸に上がって進化したヒトは 塩分に親しみがある生き物ですが 陸では塩分が不足していたため 少ない塩でも生きていける体質 つまり 塩不足に耐性のある遺伝子を持つヒトが 淘汰されて生き延びてきた のです <塩分が豊富な現代になると> しかし文明の発達とともに 食塩の生産技術の向上や各地での塩山の採掘により 豊富に塩分を享受できる世の中になり 人類の塩分摂取量も徐々に増加してきました さらに資本主義社会が進んで 外食産業が発達してくると コストが安価でヒトの嗜好性に合い 安上がりで満腹感を与えられる塩は 食品加工品に大量に用いられるようになり 今や社会全体が塩中毒になっている と言っても過言ではありません ところが 塩分不足対策で 体内に塩分を貯めこみやすい体質を作り上げた人類は 塩分過剰となった環境変化に対応して 体質を変化させることができず 過剰に体内に入ってくる塩分を蓄積してしまい その結果 高血圧を発症しやすくなりました 以前 日本人の糖尿病になりやすい体質について解説したとき 農耕民族だった日本人は 飢餓に耐えやすい節約体質を作り上げ その体質が残っているのに飽食の時代になったので 糖尿病を発症しやすいこと を説明しましたが それに似たようなことが 塩分に関しても起こっていて 現代人は高血圧になりやすいのです <ご先祖様が作り上げた体質にはあがらえない> 文明が進んで便利で豊かな世の中になったが故に ご先祖様から受け継いだ体質が あだになってしまっている現実 いずれ紹介しますが 日内リズムの変調と生活習慣病の関連においても 「ご先祖様から受け継いだ体質と 現代社会の環境変化のコンフリクト」 がみられます こう考えると 馴染みの薄かった太古の生活が 妙に懐かしく感じられるのは 気のせいでしょうか?(笑) 塩分の取りすぎで高血圧になる理由を説明する前に どうしてヒトの体は塩分を貯めこみやすいかを ご先祖様に思いを馳せながら説明しました 次回こそ なぜ塩分が多いと高血圧になるのか説明します
高橋医院