塩分過剰ともいえる現代の食生活ですが
塩分を取りすぎると
具体的に何がマズイのでしょう?

それを知るためには
「血圧と塩分(ナトリウム:Na)の関係」
について理解する必要があります


<体内に塩分を保持する仕組み>

ヒトの体には
細胞を取り囲む液体(細胞外液)の塩分濃度を
一定に保つ仕組みがあります

@腎臓での再吸収

この仕組みに最も深く関係している臓器が
腎臓です

ナトリウム濃度が濃くなれば
腎臓の糸球体でろ過・排出されますし
薄くなれば腎臓の尿細管で再吸収されます

尿細管でのろ過と再吸収の図解

この尿細管におけるナトリウムの再吸収システムこそが

塩分摂取量が少なかった太古の昔に
体内に塩分を貯めこむためにヒトが身に付けた仕組みで

一端排出したナトリウムをあとで
再吸収して保持する巧妙なシステムです

尿細管の構造と機能

@レニン・アンギオテンシン系の関与

レニン・アンギオテンシンから連なる
アルドステロンというホルモンが
このシステムに関与しています
(このホルモン系については稿を改めて説明します)


@浸透圧の維持

また 浸透圧平衡という生理的な仕組みも
細胞外液のナトリウム濃度維持に関わっています

浸透圧平衡とは
膜で隔てられた分画の
一方の水分に溶けている成分(溶質)の濃度が上がると

それを薄めるために
溶質濃度の低いもう一方の分画から
水分が移動する現象です

浸透圧の形成と水分の移動

過剰に塩分を摂取して
細胞外液のナトリウム濃度が濃くなると
浸透圧が上がります

細胞外液の浸透圧が高くなると
それを薄めるために
細胞内の水分が細胞外液に吸い取られる現象が
起き得ます

実際にそんなことが起きたら
細胞はダメージを受けて
意識障害が生じたりして大変です
(下図左の平たくつぶれた細胞のイメージです)

浸透圧の変化による細胞のダメージ

そこで 細胞内から水分を移動させずに
細胞外液の浸透圧を下げようとする
生理的機構が働きます

尿を出すのをやめなさい 
水をたくさん飲みなさい
という指令が 脳から発せられるのです

細胞外液の高い浸透圧を感知した脳は
バソプレシンというホルモンを分泌します

バソプレシンの働きにより
腎臓の遠位尿細管で水分が再吸収されるので
尿の量が減り水分が保持されます

また浸透圧上昇により
喉の渇きを感知した脳の刺激で
たくさん水を飲むようになります

その結果
細胞外液の量が増えて
血管内の水分量も増えるので
血圧が上がります


細胞外液量の増加と血圧上昇の関連

@交感神経系の関与

ナトリウムには
自律神経の交感神経を緊張させる作用もあります

交感神経が緊張すると
血管の平滑筋が収縮するので
さらに血圧が上がってしまいます




塩分の摂り過ぎで血圧が上昇する機序


<塩分をとりすぎると血圧が上がる>

こうしたもろもろの原因により
塩分をとりすぎると血圧が上がるのです

塩分の過剰摂取が高血圧を引き起こすことを
裏付ける証拠として

*食物に自然に含まれる以外の塩分を摂取しない
 インディアンでは 高血圧がほとんど見られない

*食塩摂取量が多い民族や集団ほど
 高血圧の有病率が高い

*加齢による血圧上昇は
 食塩の過剰摂取の累積効果である

といったことが
大規模な疫学調査で明らかにされています

食塩摂取量と血圧との関連を示す図


塩分の過剰摂取により血圧が上昇する仕組み
なんとなくイメージしていただけたでしょうか?

もう少し続けますから頑張ってください(笑)


<塩分の臓器毒性>

塩分には
血圧を上げる以外にも臓器を傷害する働きがあります

これを「血圧非依存性の臓器毒性」と称します

つまり
塩分を摂りすぎると たとえ血圧が上がらなくても
脳出血 脳梗塞 心筋梗塞 狭心症 心臓肥大 腎障害
といった病気になりやすいことが
多くの疫学調査により明らかにされています

また 胃癌 骨粗鬆症 気管支喘息といった
心臓や腎臓以外の病気も悪くします

塩分は
血圧上昇を介さない
臓器に対する直接的な有害作用を有しており

まさに過剰な塩分は体にとって毒なのです

ナトリウムが有する
*動脈硬化促進作用
*交感神経非依存性の血管収縮作用
その原因として想定されており

それら以外にも
*酸化ストレスの亢進
*インスリン抵抗性の亢進
*交感神経の活性化
などが関与すると考えられています

食塩過剰摂取による高血圧が臓器障害を引き起こす機序の図説

かなり込み入った話になったので
ウンザリされてしまったかもしれませんが

過剰な塩分摂取が血圧を上昇させ
心臓や腎臓を傷めつける

というイメージを持っていただければ幸いです

前回もコメントしましたが

塩分は生きるために必要で
かっては貨幣と同じくらい価値があったので
ヒトは進化の過程で再吸収というシステムまで作って
体内に保持しようとしました

しかし
塩が豊富に手に入る今の世の中では
その過剰摂取による高血圧などの塩毒性が
健康上の問題になってきています

なんとも皮肉なことですが

より大きな問題は
多くの人々がこうした問題点を実感できず 
塩分中毒ともいえる日々の食生活を
何の疑問もなく続けていることでしょう

確かに血圧はかなり高くならないと
自覚症状が出ませんが
だからこそマズいのです

日々の食生活で
どれだけ塩分を摂りすぎているか
それがどれだけ危険なことか

これを機会に
ちょっと考えてみていただけたらと思います
高橋医院