高血圧のパーソナル治療
<高血圧の基準値> 診察室で測った血圧の値が 140/90mmHg以上だと高血圧と診断されます どうして140/90mmHgが 正常値に決まったかというと 多数の人達を対象にした長期にわたる検討 (久山町研究などが有名です)で 140/90mmHgより高い人々は 低い人々に比べて 脳卒中 心血管病(狭心症・心筋梗塞)の 死亡の危険性 発症頻度が 統計学的有意差をもって高いことが 明らかにされたからです <治療の目標> 高血圧の治療の目標は 脳卒中や心血管病を起こさせないことです 血圧が10mmHg下がるだけで 脳卒中は40% 心血管病は20% それぞれ発症リスクが減少します こうした効果は *治療開始時の血圧の値が高いほど *高齢者ほど 大きいことが明らかにされています また治療効果に男女差はありません <高血圧の重症度> 高血圧は 下図に示すように *Ⅰ度(軽症) : 140/90~160/100 *Ⅱ度(中等症): 160/100~180/110 *Ⅲ度(重症) : 180/110< の3群に分かれ 軽症から重症に上がるにしたがい 脳卒中や心血管病の発症頻度は高まります <血圧が正常域でも安心できない?> 140/90mmHgより低いから絶対大丈夫 というわけではありません 正常血圧は 上図に示すように
*正常高値血圧 : 130/85~140/90 *正常血圧 : 120/80~130/85 *至適血圧 : <120/80 の3群に分かれ 正常高値血圧から至適血圧に下がるにしたがい 脳卒中や心血管病の発症頻度は低くなります また 正常血圧 正常高値血圧の人は いずれ高血圧に移行する確率が高いとされています ですから たとえ血圧が正常域にあっても 別の心血管病変のリスクがある方は (喫煙者 糖尿病 蛋白尿陽性の腎臓病 脂質異常症 肥満 メタボ 家族に心血管病の人がいるなど) できるだけ至適血圧まで血圧を下げた方が安心です 但し 両側頚部動脈に閉塞がある方などは 過度に血圧を下げると かえって危険ですから注意が必要です <人により異なる 治療を開始すべき血圧値 治療の目標値> こうした事情を背景に 降圧剤を用いて血圧を下げる治療を行うとき *どれくらいの血圧の値で治療を開始するか? *どれくらいの値まで血圧を下げるべきか? は そのひとが有するバックグラウンドにより異なり 全ての人が均一というわけではありません 2014年に日本高血圧学会が示した 高血圧治療ガイドライン によると @心血管病変の危険因子が高血圧以外にない方 つまり高血圧単独の方は *180/110mmHg以上(重症高血圧)だと ただちに降圧剤治療開始 *140/90~160/100mmHg(軽症高血圧)の方は まず3か月 *160/100~180/110mmHg(中等症高血圧)の方は まず1か月間 それぞれ生活習慣の改善を試みて それでも140/90mmHg以下にならなければ 降圧剤による治療を開始 *治療目標値は 140/90mmHg未満です @糖尿病以外の危険因子が1~2個あるか メタボと診断された方は *160/100mmHg(中等症高血圧)以上だと ただちに降圧剤治療の対象 *140/90mmHg~160/100mmHg(軽症高血圧)の方は まず1か月生活習慣の改善を試みて それでも140/90mmHg以下にならなければ 降圧剤による治療を開始 *治療目標値は 140/90mmHg未満です ご覧になってお解りのように 心血管病変の危険因子がある方 メタボな方は 高血圧だけの方に比べると 薬剤治療開始の基準が一段厳しくなっています @糖尿病がある方 尿蛋白陽性の慢性腎臓病がある方 心臓病がある方 は *130/80mmHg以上が治療開始対象 *治療目標値は 130/80mmHg未満 つまり糖尿病や尿蛋白陽性の方は 高血圧単独の方より 薬物治療開始の基準も治療目標値も さらに厳しくなっています 糖尿病 尿蛋白陽性の慢性腎臓病は 心血管病変のハイリスク因子 であることが明らかにされていますから そうした方の血圧は より厳密にコントロールされるべきである という強い意図があるわけです @高齢者 お年寄りは加齢により血圧が高めになりますから 後期高齢者では 150/90mmHg未満が治療目標値になります <今日のまとめ> このようにひとくちに高血圧といっても 患者さんの背景によって *降圧剤治療を開始すべき血圧値も *治療目標値も 異なります まさに個人個人の状況を考慮した テーラーメイド医療が スタンダードとなっているのです 一方 患者さんが認識されていなくても すぐに治療を開始した方がよい場合も あり得ますから 健診で血圧が高めと指摘されたら 面倒がらずに相談に来てください
高橋医院