前回お話ししたように 
スローカロリー GI値の低い食物は
食後高血糖を避けるために推奨されていますが

どうして食後高血糖だと
まずいのでしょう?


<食後高血糖とは?>

まず食後高血糖の定義を示します

健康な人は食後2時間たつと
血糖値は140mg/dl未満まで下がりますが
そこまで下がらない人もおられます

こうした
「食後2時間たっても
 血糖値が140mg/dl以上の状態」が
食後高血糖です


食後の血糖上昇パターン


<どうして食後高血糖になるのか?>

食後高血糖になる原因の多くは

食後の血糖上昇に反応して分泌される
インスリンの量が足りなかったり

分泌のタイミングが遅いことです


インスリン またでてきましたね!

糖尿病とは切っても切り離せない大事なホルモンなので
少し復習しましょう

インスリンは
血糖値の上昇を感知して
それを下げよう
膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで

その働きにより
血中の糖質は
肝臓や骨格筋に取り込まれ
グリコーゲンとして蓄積されたり
エネルギーとして利用されたりします

日本人はインスリンを分泌する力が弱いので
糖尿病になりやすい

肥満になると
インスリンの作用が発揮されにくくなるのでインスリン抵抗性糖尿病になってしまう

以前にそんなことをお話ししましたが
憶えておられますか?


インスリンの分泌には

1日24時間を通して
持続的に少量分泌されている基礎分泌

食後に反応して分泌される追加分泌

があります

インスリンの基礎分泌と追加分泌


食後に急激に血糖が上昇すると
膵臓のインスリン分泌対応が後手を踏む
ことになり得ます

食後の追加分泌量が足りなくなったり
分泌のタイミングが遅れたりする

また インスリン抵抗性があると
食後に上昇した血糖が
肝臓や筋肉にうまく取り込まれない

食後高血糖とインスリン分泌反応

そうした理由で
食後高血糖の状態が持続してしまう

だからこそ
食後高血糖を招いてしまう
食後の急激な血糖上昇は避けたいのです

これこそがスローカロリー運動が
提唱していることです


<食後高血糖が放置されるとどうなるか?>

食後高血糖の状態では
まだホンモノの糖尿病とは診断できませんが

この状態が持続すると
膵臓はインスリン分泌量を増やして
対処しようとします

この段階では
膵臓は未だダウンに至るほどの
パンチを受けてはいませんが

食後高血糖の持続という
ボデイーブローが徐々に効いてきて
それに対応するために
インスリン分泌量を増やす状況が長引いてくると
ダメージが蓄積してきます

やがてダメージが限度を超えると
インスリンの分泌能力が限界を越え
ついにインスリン分泌が衰えて
ホンモノの糖尿病になってしまう


食後高血糖から糖尿病への進展


食後高血糖が持続すると
ホンモノの糖尿病発生につながるので
危険なのです!


もう少しおどかしますが(笑)

空腹時血糖に比べて食後血糖が高く
血糖の変動が大きいことは
(専門用語では「グルコーススパイク」と言います)

血糖値の高い状態が変化なく持続するよりも
かえって動脈硬化を進展させやすいことが
明らかにされています

急激な血糖上昇 血糖変動
活性酸素という血管を痛めつける物質の産生を
促すからです

そして
食後高血糖が持続する人の心血管病発症率は
健常人の2倍

心血管病での死亡率は
健常人とホンモノの糖尿病患者さんの中間くらいで
癌や認知症の発症リスクも高まると
報告されています

食後高血糖の人の心血管病発症率増加


食後高血糖の怖さを
認識していただけましたか?


<食後高血糖は診断されにくい>

厄介なことに
食後高血糖の人は
空腹時血糖は正常なことが多いので
健診でひっかかることはない

こうしたことから
食後高血糖の人は”かくれ糖尿病”と
称されることもあります

かくれ糖尿病は
正式な専門用語ではありませんが
便利なのでここでは使うことにします

かくれ糖尿病のひとの食後血糖上昇パターン


”かくれ糖尿病”の状態は
ホンモノの糖尿病と診断される
何年も前から続いていると推察されており

”かくれ糖尿病”の人の数は多く
ホンモノの糖尿病と診断されている人の
倍以上おられるとの推計もあります

糖尿病予備軍のような位置付けです

糖尿病予備軍としてのかくれ糖尿病

国際糖尿病連合(IDF)は
2007年ガイドラインで

糖尿病を
空腹時血糖値だけで判定しようとすると
食後高血糖を見逃してしまう恐れがあるため

食後血糖値測定が
糖尿病の早期発見のポイントである

と明記しています

”かくれ糖尿病”の段階で見つけて
食事療法や運動療法を開始して
ホンモノの糖尿病に進展するのを防ぎたい

健康管理の狙いはそこです!


食後高血糖の診断を正確に行うには
ブドウ糖負荷試験(OGTT)を
受けていただく必要があります

75gのブドウ糖が入った
サイダーのようなドリンクを
一気飲みしていただき

飲む前 30分後 1時間後 2時間後に採血をして
血糖と血中インスリン濃度を測定します

インスリン濃度も測定するので
血糖上昇に対するインスリンの反応性も
評価できます

空腹時血糖110mg/dl未満 
かつ
2時間後血糖140mg/dl未満なら 正常

空腹時血糖126mg/dl以上
または
2時間後血糖200mg/dl以上なら 糖尿病

そのどちらにも属さない場合は
境界型 ”かくれ糖尿病”です

OGTTで発見されるかくれ糖尿病

上の図をご覧になってわかるように
空腹時血糖だけでは糖尿病と診断されず
OGTTによって初めて診断される患者さんの数は
少なくありません


しかしOGTTを行った方が良い人は
メタボな忙しいお父さんが多いので
2時間以上仕事を抜け出して検査を受けていただくのは
現実的には困難でしょう

ですから
本当にOGTTを行なうべきか判断するために
健診の空腹時血糖とHbA1cの結果をチェックして

空腹時血糖が126mg/dl未満でも
 HbA1cが5.8%を越えている

HbA1cが基準値内でも
 空腹時血糖が110mg/dlを越えている

そのいずれかに該当している方は
かくれ糖尿病である可能性を疑って
是非とも早目に
糖尿病専門医に相談していただきたいのです

そうでなくても
糖尿病の家族歴がある方や
メタボな方は要注意です

最近太ってきて糖尿病が心配な方
もういちど健診結果を
チェックされてみてください!

食後高血糖から糖尿病への進展

 

高橋医院