持ち物検査
内分泌内科は、甲状腺疾患も多いです。ある時、甲状腺外科の先生から電話が来ました。
“来週、バセドウ病で内服ではコントロールできない患者さんがいて、手術を予定しているけれど、
甲状腺が大きくないし、術前コントロールが上手くいかないので、
内科で入院させてほしい”というものでした。
とにかく1回、外科から内科に転科になりました。データを見て、“はて?”となりました。
そして、触診しても、甲状腺は大きくないです。う~ん。20代女性です。
バセドウ病の特異的な抗体も陰性だし、これはバセドウではなくて、薬をこっそり飲んでる?
甲状腺機能低下症のときに、甲状腺機能をあげるために、チラーヂンSという薬で治療します。
(Sは合成の意味で、チラーヂンSは人間の甲状腺ホルモンそのものです。
以前は豚の甲状腺ホルモンを使っていました。そちらは、単なるチラーヂンといいます。ちなみに。)
チラーヂンSは代謝を上げるので、痩せます。ただし、使い過ぎれば、心房細動をおこしたり、危険です。
どうも、ネットでやせ薬として、売られているようです。
患者さんのデータを見ると、明らかに、バセドウ病のデータではなく、
チラーヂンSを飲んでいるデータです。
さらに、色々な科のカルテを読んでいると、痩せたくて美容整形外科に受診したという
文字をカルテ内に見つけました。しかもその当時の体重と今では20㎏ぐらい違います。
ますます確信・・さて、どうそれを証明するか。
精神科にいたという看護師さんが、患者さんの承諾を得たうえで、
持ち物検査をしてはどうかと提案してくれました。
気はすすみませんが、やらざる負えません。
本来不要な手術を阻止するためにも・・本人は、最初拒否・・
そして、2時間後、本人から持ち物検査をやってくださいと。
そして、その2時間の間に、宅急便が出され・・持ち物検査は、白=薬はなかった でした。
その後の1W後の採血で甲状腺は正常化にむかっており、
これで明らかに薬をどこかで入手して、飲んでいたことが証明されたのでした。
そして、無事に手術は回避されました。
いまだに謎は、手術を拒否しないのはなぜ?甲状腺をとれば、一生甲状腺の薬を飲めるから?