現代のワインへ
いよいよ 私たちが今楽しんでいるワインに近づいてきます <19世紀に起こった大事件> @パスツールによるアルコール発酵の発見 ワインにとって 19世紀に起きたいちばん大きな出来事は パスツールが 酵母によるアルコール発酵のメカニズムを解明したことです 彼の発見により ワイン造りの科学的側面が明らかにされました パスツールは アルコールの微生物による腐敗を防ぐ低温殺菌法も見出しました @ワインの格付け 1855年 パリ万博で ボルドーのシャトーの格付けが行われました イギリス暮らしが長く ボルドー贔屓だったナポレオン3世が 世界にボルドーワインの魅力を喧伝するために 万博の目玉の催しとして行ったのです 詳細は フランスワインの解説でご紹介しますが この格付けにより 世界のクラシック・ワインにおけるボルドーワインの高い地位が確立し ボルドーにおいては ワインのヒエラルキーが確立しました 原則として そのときに決まった格付けが 現在まで引き継がれています <フィロキセラ> 19世紀に起こったもうひとつの大事件が フィロキセラ禍です フィロキセラは 土中に繁殖 生息する ブドウの木の根を食べるアブラムシの一種の害虫で ブドウの木を枯れさせてしまいます 19世紀半ばに アメリカからヨーロッパに輸入したブドウの苗木に 付着していたフィロキセラが フランスから始まり ヨーロッパ全土に被害を拡げました こうしてヨーロッパのブドウの木は ほとんど全滅してしまいましたが もともとフィロキセラに抵抗力を有していた アメリカのブドウの木を台木とし そこにヨーロッパの木を接ぎ木をして 完全な全滅を免れました こうして ヨーロッパの主要な畑では ブドウがほぼ完全に植え替えられたのです ちなみに南米のチリでは フィロキセラがヨーロッパで広がる以前に フランスで栽培されていたブドウの木が栽培されていて しかもフィロキセラの流行がなかったので ヨーロッパのオリジナルのブドウの木から造られたワインであることを セールスポイントにしているそうです 接ぎ木した木と オリジナルの木では できてくるブドウの味が違うのかな?(笑) ウイスキーとフィロキセラに関する面白い話もあります イギリスでは フィロキセラ禍以前には ウイスキーを飲まず フランスのコニャックを飲んでいましたが コニャックの元となる白ワインを造るブドウの木が フィロキセラで壊滅したために ブランデーが輸入できなくなって 自国のウイスキーに目を向けて飲み始めたのだそうです イギリス人は ボルドーワインといい コニャックといい フランスのお酒に憧れでもあったのでしょうか? <アペラシオン・コントロール> 1935年に フランスで 原産地呼称規制制度 アペラシオン・コントロールが生まれ AOC法が確立されました 地名を表示できる 地域 地区を定め そのエリアでの 最大収穫量 最低アルコール濃度 ブドウ品種 栽培方法 などを決めて それらをクリアーしたワインのみに地名の表示を認める というシステムのワイン法です 対象となる地域が小さくなるほど 要件が厳しくなります この制度 ワイン法は イタリア スペイン やがてEU全体に広がっていきます これは ワイン造りから不正を排し 誠実な生産者を守り 消費者を保護し ワインが大衆のものになったことを反映する とても大きな意味を持つものです <ニューワールドのワインと ワイン造りの機械化> 20世紀のワイン造りには 他にも大きな出来事がありました @ニューワールドのワイン 第2次世界大戦後に強大な国家アメリカが誕生し アメリカは巨大なワイン消費市場になり 強力なワイン生産国としても台頭してきました さらに 大英帝国の崩壊により 英連邦のオーストラリア ニュージーランド 南アフリカでの ワイン生産が独立して ニューワールドのワインがどんどん広まっていきます @ワイン造りの機械化 畑にはトラクターが導入されました ステンレスタンクの発酵槽の導入され 清潔さの維持 温度コントロールが可能になりました 発酵時の温度制御は 酵母の働きにとても重要ですが 最初にステンレスタンクを導入したのは なんと シャトー・ラトゥールでした さすがポンパドール夫人は 先見の明があった?(笑) 一方で シャトー・マルゴー ロマネ・コンティは 今でもステンレスタンクでなく 木樽を使っているそうです 今は ほとんどの上級ワインでは ステンレスタンクで発酵させて 樽で半年~2年間熟成させています 現代でも ブドウの栽培は自然の気象に左右される農業ですが 醸造の面では 科学の発展が目覚ましく 特にニューワールドのワイン造りでは 最新の醸造技術がふんだんに取り入れられていて フランスなどの名産地の醸造家の中にも 歴史や習慣に縛られることなく 最新技術を取り入れる人も増えています
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