シンポジウムの最後に
防衛医大の川名先生が
現在 最前線で試みられている治療について
まとめられました


新型コロナウイルス感染の終息には
ワクチンか特効薬が必要になりますが
いずれの開発も一朝一夕にはいきません

そこで
HIV 喘息 膵炎などで既に使われている治療薬を
新型コロナウイルス治療に用いる試み
世界中で行われています

新型コロナウイルス治療に試みられている薬をまとめた表

@カレトラ

HIVの治療薬で
SARS MARSに有効だったので
試みられました

カレトラの説明図

効果があったという報告と 
なかったという報告が
それぞれあって
未だ評価は定まっていないようです


@アビガン

最近 見聞きする頻度が高いアビガンは
新型インフルエンザが流行した時のために
日本で開発され 備蓄されていた薬です

アビガンの説明図

RNAウイルスが増殖するときに使う
RNAポリメラーゼという酵素を抑制するので
コロナウイルスもRNAウイルスなので使えるかも
という目論見で試されました

その結果は 意外に良いようで
世界各地で臨床試験が開始されています

催奇形性があるので 妊婦さんには使えません


@オルベスコ

オルベスコは喘息の治療薬ですが

コロナウイルスや炎症を抑える化学構造を有する
化合物を検索している過程で
スクリーニングされました

オルベスコの説明図

さらに SARSやMARSの原因となる
コロナウイルスの増殖を抑制することも明らかにされ

実際に患者さんに投与して
効果があったという報告もあります


@フサン

急性膵炎などの治療に用いられている薬で

セリンプロテアーゼという
さまざまな生体反応に関わる酵素の働きを抑制し
炎症反応を制御します

フサンの説明図

試験管内でMARSのウイルスを抑制します

また 新型コロナウイルスが細胞に吸着するとき
細胞のACE受容体に付着しますが
フサンはこの付着を抑制することが明らかになり
抗ウイルス作用が期待されています


@サイトカインストームの治療

最近 テレビなどでも
サイトカインストームという言葉を
聞くことがあると思います

免疫反応や炎症などで活性化された免疫細胞は
サイトカインという液性因子を放出して
感染を制御しますが

活性化されすぎると
過剰に産生されたサイトカインが暴れだし
正常な細胞にもダメージを及ぼし
重症化させる現象 です

高齢者より若者に多く起こるので
悪化する若い感染者では
サイトカインストームが起きているのでは?
と推測されています

サイトカインストームについて説明する図


新型コロナウイルス肺炎の患者さんの体内では

最初のうちは
ウイルスに対する反応が主ですが

病状が進行するにつれ
炎症反応が主となり それが過剰になっていきます

病状が進行するにつれ炎症反応が過剰になっていくことを示す図

ここからは
慶応大学の竹内先生が使われたスライドですが

この際の 過剰な炎症反応により
サイトカイン産生量が増加しています

サイトカイン産生量の増加を示す図

ですから治療も
最初は抗ウイルス薬を使いますが

初期の抗ウイルス薬治療を示す図
病態が進行して
サイトカインストームが疑われる状態になると
それを抑える抗炎症薬が
治療の主体として用いられるようになります

後期の抗炎症薬治療を示す図

サイトカインストームの治療には
IL-6というサイトカインを抑制する抗体治療薬
(商品名・アクテムラ)
が主に使われます

またサイトカインストームを起こす
強い炎症を抑制するために
強力な抗炎症作用を有するステロイドの
全身投与が試みられているようです

全身ステロイド投与について説明する図

演者の川名先生も
重症症例へのステロイドパルス治療を試みられ
期待を持たれているようでした

ステロイド治療の有用性を説明する図

病態が悪化したときに
最後の手段的な窮余の策として使う
ステロイドパルス療法

書き手も病棟で主治医をしていたとき
何回もそうした場面に遭遇し
嬉しい思い 悔しい思いをしたことが
何回もありました


但し ステロイドを使うと 
免疫反応を抑制するので
なかなかウイルスを排除できないといった
デメリットもあるようです


最後に川名先生は 個人的な感想と前置きされて

「この薬はいい!」という感触の薬はまだなく
今後の臨床研究の進展に期待したい

と まとめられていました

早く良い薬が見つかることを期待したいです
高橋医院