ワインの話が延々と続きましたから
ここらでお口直しに 哲学の話題をしましょう

でも どうしてワインから哲学なの?
ちょっと極端にぶれすぎない?

まあ 細かいことは気にしないで(苦笑)


年末年始に哲学の話題をご紹介し
直近でマルクス・ガブリエルがパンデミックについて語ったことを
レポートしました

哲学者のマルクス・ガブリエルは
これまで紹介したNHKの番組に常連のように出演し
まさに異彩を放っていたので
個人的にはとても気になる存在です


さて もうだいぶ前のことになりますが
2018年の年末にNHKで
今をときめく哲学界のスターによる
哲学史のミニ・レクチャー番組が放送されました

欲望の哲学史 序章
なぜ世界は存在しないのか? 新しい実在論

なんだか すごいタイトルですね!(笑)

彼がこの番組でどんなことを語ったかご紹介します


まず
客観的な「全体」「全体性」というものは存在しないし
「世界」は存在しない
と いきなりぶちかまします

わけがわかりませんね!(笑)

現代は
民主主義の危機 気候変動 中東の混乱などが渦巻く
深い危機の時代なので
全く新しいコンセプトが求められている

リアルな現実の構造を
哲学によって理解しなければならない

そもそも哲学は 時代と格闘してきたものだ

と この時代に哲学を語ることの意義を強調し
近代社会と哲学の関わりについて説明していきます


<実存主義>

1945年に終結した第二次世界大戦のあと
人々は 唯一神は存在しない
神は人生に意義をもたらすことができない
と考え始めます

そして生まれたのが 実存主義

全ての既成の価値観を壊す 新たに生まれてきた考え方です

「実存は本質に先立つ」
というのが その基本テーゼで
「全ての意味の前に まず人は存在する」と考えます

実存主義の大スター サルトルは
*個人次第で あらゆる行動の選択が可能になる
*どんなことがあっても 人は常に自由である
*自らの意思で人生に意義をつかみ取るのが人間
と主張し

パートナーのボーヴォワールは
人は女に生まれるのではない 女になるのだ
と語りました

ヒトの誕生 存在には意味を見いだせない

人生は運命で決まっておらず
状況を超えて自分で考えることが大切で
「投企・project」により 初めて人生に意味が与えられる

と考えます

そして
近代 民主主義という概念は 投企により成り立っている
歴史を決定するのは 自由な個人の主体性 理性である
とします
これが「弁証法的理性批判」と呼ばれるものです

実存主義は
人々に「自らの存在」について問うことを迫ったのです

実存主義が社会に及ぼした影響はとても大きく
東西冷戦下の緊張下の1950年代に
実存主義に感化された若い世代が
体制批判を起こし 政治運動が盛んになります

さまざまな分野で
過去の価値観 方法論が否定され
ヌーヴェルヴァーク 新しい波 と呼ばれました

批判的に見ると 実存主義の問題点は
人間の営みの中心に
「主体 Subject」という概念を置いたことです

主体とは
人生の意味を自らつかみ取ることができる
というアイデアですが

やがて そんな独立した主体というものは
本当に実在するのか?
という問いが投げかけられるようになります


<構造主義>

1960年代
主体や経験は 現実の構造の中のひとつの単位にすぎない
という考え方が提唱され始めます

構造こそが 人生に意味を与える

と主張する 構造主義のデビューです

構造主義の大スターは レヴィ=ストロース

学問は 現象の背後にある
より普遍的で奥深い現実を理解する試みである
自らを感覚的な経験だけに閉じ込めてはならない

社会の構造に普遍性がある

と彼は説きます

未開地に自ら出向き
熱心にフィールドワークを行った彼は

サルトルが頼みとする歴史は
西洋社会についてはあてはまるけれど
未開な異文化社会についてはあてはまらない

人間の主体が歴史を作るという考え方は
西洋中心主義の思い上がりで
人が逃れることができない構造を見ることが重要だと
指摘します

「野生の思考」と呼ばれる レヴィ=ストロースのスタンスです

彼は世界中の神話の研究を精力的に行い
*世界各地に 同じような物語 構造が存在している
*それらの間には 普遍的な基本的構造が存在する
ことを明らかにしました

そして
人生の外側にある何かが 人生に構造を与えている
と考えるに至り

主体から構造へのパラダイムチェンジを提唱し
人間中心主義 進歩 というアイデアからの
脱却を試みました

構造主義が注目されていた1960年代後半に
歴史の流れを根本的に変えようという運動が
世界各地で起こりました

中国の文化大革命
ヨーロッパの学生運動

まさに政治の季節
世界各地で
体制からの解放 平等の求める反体制運動が起こり
近代への反逆が行われたのです

 

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