第3染色体上に存在するバリアントが
新型コロナウイルス感染の重症化に関わる遺伝因子であることを
前回 紹介しましたが

興味深いことに
これらのバリアント保有率は 世界各地で大きな開きがあります


<重症化に関わるゲノム配列の保有率は世界各地で異なる>

両親から1本ずつ受け継いだ第3染色体の
少なくとも一方にこのバリアントが存在する割合は

*南アジア人で非常に多く約50%

*ヨーロッパ人は約16% アメリカでは約4%

*東アジア人(中国 モンゴル 台湾 韓国 日本など)はほとんどゼロ
 アフリカでも ほとんど見られません

特にバングラデシュでは保有者が最も高頻度で
63%が1本 13%は2本の遺伝子にバリアントを持っています

世界各地での重症化に関わるゲノム配列の保有率を示す地図

この事実は
バングラデシュに祖先をもつ人の 
新型コロナウイルス感染による死亡率は
一般イギリス人の約2倍
という研究結果を裏付けると考えられます

そして
この遺伝的リスク因子の保有率の違いが
新型コロナウイルスによる死亡率が
南アジアで高く ヨーロッパがそれに次ぎ
東アジアでは低いことに影響を及ぼしている可能性が
考えられています


<どうして世界各地でリスクゲノムの保有率が異なるのか?>

世界各地でのリスクゲノムの保有率の差は
偶然起きた可能性より
自然選択により起きた可能性が高いこと
遺伝統計学的に推定されています

自然選択について説明する図

選択要因が何であったかは不明ですが
この領域には
免疫反応に関わるケモカインの受容体の遺伝子が
密集していることから
なんらかの感染症により選択が起きた可能性が
高いと推察されます

つまり 各種病原体の過去の流行状況が
地域ごとに異なることが
影響しているのではないかと考えられています

全ゲノムの解析により
東アジア人にも
ネアンデルタール人のゲノム配列が残っていることが
明らかにされていますが

それにもかかわらず 東アジア人では
新型コロナの重症化リスクとなるバリアントが見られないのは
なんらかの感染症により
このバリアントが選択的に消滅した可能性があります

例えば
新型コロナウイルスに類似したコロナ系ウイルスが
かつて東アジアで流行し
重症化リスクとなるゲノムを持つ人々を死亡させたので
生き残った東アジア人は
このゲノムを有していないのかもしれません

一方 南アジアでは
かってコロナ以外の感染症が流行し
このゲノムがその感染症への抵抗力を有していたので
生き残った南アジア人で選択的に残った可能性もあります

また ネアンデルタール人は
新型コロナウイルス感染を重症化させるゲノムしか
持っていなかったために
はるか昔にこのウイルスが流行して
ネアンデルタール人を絶滅させた可能性もあります

ネアンデルタール人の絶滅について説明する図

このように さまざまな推測をすることができます

最近の交差免疫の研究などにより
東アジアで過去にコロナウイルスの仲間の感染症が流行し
抗体や細胞性免疫の記憶が残っているため
東アジア人は新型コロナウイルスの流行が小規模で軽症との
推測がなされていますが

免疫記憶は一代限りであるのに対し
遺伝子の記憶は数代にも伝わるものなので
このような短期的 長期的な感染症の記憶が集団に残っており
それが集団間の新型コロナウイルスの重症化の差の
原因となっている可能性があります

面白いですね!


<重症化に関わるゲノム配列は何をしているのか?>

今回明らかにされた重症化リスクと関連するゲノムが
どのように重症化に関わるかは まだ解明されていません

ネアンデルタール人由来のバリアントのどのような特徴が
新型コロナ感染症の重症化をもたらすのか?

こうした特徴の影響が 新型コロナウイルスだけでなく
他のコロナウイルスや病原体の感染の重症化に関わるか?

といった点は 明らかにされていません

このバリアント領域には
上述したようにケモカインに関連する遺伝子や
新型コロナウイルスが細胞に侵入するときに使うACE2と結合する
別のタンパク質の遺伝子があり
これらに何らかの影響を及ぼしている可能性も考えられています

とても興味深い現象であることが明らかにされましたから
そのメカニズムが明らかになることを期待したいです


それにしても ネアンデルタール人ですか!

ネアンデルタール人

普段の生活で
ネアンデルタール人のことを考えることはあまりないので
う~ん、、という感じですねえ(笑)

 

高橋医院