貴腐ワイン
これまでのワイン解説シリーズで 何回か貴腐ワインが登場しましたが きちんと解説していませんでした 貴腐ワインは 貴腐香と呼ばれる独特な芳香に凝縮された甘さを持つ 世界最高峰の甘口ワインで 「貴腐ブドウ」という 極めて糖度の高いブドウを原料に造られます 色合いは琥珀色で 粘性も豊かで 貴腐香という はちみつ ドライフルーツを思わせる 独特の芳香が感じられます 強い甘味がありますが 上質な貴腐ワインは酸味もしっかりあり バランスが取れています ブルーチーズなどクセの強いチーズや スイーツ フォアグラ料理など 甘味やコクの強い料理とマリアージュするのが定番です <貴腐菌> ボトリティス・シネレア菌(貴腐菌)という ブドウの果皮に感染するカビの一種が果皮に付着すると 菌糸が侵入して果皮の組織が破壊されます その後 日照が多く乾燥した天候が続くことで ブドウの中の水分が蒸発していき 収穫時には糖分などのエキスが凝縮した 貴腐ブドウへと変貌を遂げます こうして 糖度が高くなった貴腐ブドウを原料としているため 貴腐ワインは極甘口に仕上がるのです 貴腐菌は 本来はブドウにとって有害な菌ですが 特定の条件を満たした場合にのみ ブドウを貴腐化させます その条件とは *朝に霧が発生して 菌の生育に都合の良い温度 湿度状態になっていること *日中は晴天で乾燥し 水分の蒸発が進行すること *これらの気象条件が少なくとも1ヶ月以上持続すること などです このように 貴腐ブドウの生育条件は厳しく 自然環境に依存する部分が多いため 特定の産地やヴィンテージにしか造られません またシャトー・ディケムは 完璧さを維持するために 不作のヴィンテージには貴腐ワインを生産しません <貴腐ワインが高価な理由> 貴腐ワインは 他の甘口ワインに比べて高価ですが それは収穫や醸造も他のワインに比べ 何倍も手間をかけて行われているからです 特にブドウの収穫は 厳選して摘み取られ (場合によっては 同じ房の中でも部分的に収穫を何度も繰り返すこともあります) 選果も徹底して行われます 収穫したブドウは 干しブドウ状になっているため 得られる果汁は極わずかしかなく シャトー・ディケムでは 1本のブドウの樹からグラス1杯分のワインしか造れません またワインの醸造中も 果汁糖度が非常に高く発酵がうまく進まないこともあるので 気が抜けません <貴腐ワインの起源はドイツであるとする説> 寒冷地のドイツでは ブドウの収穫後 発酵の途中で自然と酵母の活動が止まってしまい これが甘口ワインを生む契機となるとされます 酵母が果汁中の糖分を食い尽くす前に 気温の低下によって活動が停止してしまい 糖分が残るからです 昔のワイン愛好家は 甘口ワインに嗜好が傾いていたため これが好都合で ドイツのワイン造りは このようにして自然現象を利用する形で 甘口ワインを造る素地ができていたとされます <代表的な貴腐ワイン> @ソーテルヌ ボルドーで造られます 秋頃に 水温の違うシロン川とガロンヌ川が合流することで霧が発生し 一帯が覆われるという特殊な気候条件下で貴腐化が始まり さらに午後にこの霧が晴れ乾燥が進むと 貴腐化が進みやすくなります ソーテルヌで特に有名なのが シャトー・ディケムで 1855年に制定されたソーテルヌ&バルサックの格付けで 唯一の第1級に選ばれています @トロッケンベーレンアウスレーゼ ドイツで造られる貴腐ワインで それ自体が産地名や生産者名ではありませんが ドイツのなかでも 最高級ワインとされています モーゼル地方のエゴン・ミュラーが特に有名です @トカイ・アスー ハンガリーのトカイ・ヘジャリヤ地方で 最上格の貴腐ブドウ100%で造られた ナトゥールエッセンシアも 世界有数の貴腐ワインです
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