タンパク質の寿命と分解
これまで タンパク質が誕生し成熟する過程を説明してきましたが
今日は 寿命と分解の話をします
<タンパク質の寿命と分解>
@タンパク質の新陳代謝
1日にタンパク質の2~3%は作り替えられています
古いものは壊され 新しいものが作られます
タンパク質の寿命は 種類によって異なり
短いものは10分 長いものは150時間ほどで
ミオシン ヘモグロビンなど
寿命が数十日~数ヵ月の長生きのものもあります
生体の機能が適切に行われるために
すぐに分解されなければならないタンパク質もあります
たとえば ほぼ1日で1回転する細胞周期は
サイクリンというタンパク質により制御されますが
サイクリンは ある周期に入ると分解され
それがシグナルとなって 周期が次に移行します
ですから サイクリンが適切な時期に壊れないと
細胞周期が上手く回らないのです
ほぼ3ヶ月で 体内のタンパク質はほとんど入れ替わり
1年間で全細胞の90%は入れ替わります
@アミノ酸の出納
1日あたりの
食事からのタンパク摂取量は 60~80g
必要とされるタンパク製造量は 180~200g
分解されて尿素窒素として排泄される量は 70g
食事からの摂取だけでは
必要な製造量に全然足りません
足りない分は
体内のタンパク質を分解して得たアミノ酸が用いられます
体内のアミノ酸の出納バランスを維持するには
タンパク質が分解されることが必要になるのです
<危機管理と品質管理に必要とされるタンパク質の分解>
タンパク質の分解は
細胞の危機管理 タンパク質の品質管理上
必要とされます
@細胞の危機管理
ストレスなどで壊れ 機能を示せなくなった変性タンパク質が
いつまでも分解されないでいると 細胞には有害ですから
不良な変性タンパク質を見つけ出し分解することが
細胞の危機管理上 重要です
@タンパク質の品質管理
上手くフォールディングできなかった新しいタンパク質を
適切に処分 分解しないと
タンパク質の品質管理が保てません
<ユビキチン・プロテアソームシステム>
細胞内のタンパク質分解系は何種類かありますが
代表的なのが ユビキチン・プロテアソームシステムです
@ユビキチン
わずか76個のアミノ酸からなり
細胞内に広く至るところに存在しています
ユビキチンが結合したタンパク質は
プロテアソームにより分解されます
分解されるタンパク質の目印になるのです
ちなみに ユビキチンは熱ショックタンパクの仲間です
タンパク質は
ユビキチンが1個結合しただけでは分解されず
他のユビキチンに連なって 最低4個結合すると分解されます
このように
ポリユビキチン化が目印になり分解されるので
このシステムは 選択的タンパク質分解系 と呼ばれます
@ユビキチン付加のプロセス
ユビキチンは ユビキチン活性化酵素により活性化され
ユビキチン結合酵素に受け渡され 複合体を形成します
そして ユビキチンリガーゼという酵素が
分解されるべき標的タンパク質を 複合体に連れてきます
ユビキチンリガーゼは
どのタンパク質にユビキチンを結合させるかを決める酵素で
細胞内には1000種類以上のユビキチンリガーゼが存在し
細胞内の変性タンパク質を常に監視しています
そして ユビキチンが標的タンパクのリシンに結合し
このステップが繰り返されて
標的タンパク質上に ユビキチンが積み重なっていきます
@プロテアソーム
分子量200万の巨大分子で
本体の20S触媒ユニットの両端に
2個の19S調節ユニットの蓋が結合し
筒状の構造を呈しています
触媒ユニットは
α βサブユニットの4つのリングが
筒を作っています
プロテアソームは 細胞の中にたくさんあり
核の中にも サイトゾルにも存在しますが
タンパク合成の場である小胞体には存在しません
@ユビキチン・プロテアソームシステムの働き方
まず 標的タンパク質に結合しているポリユビキチンが
プロテアソームの調節ユニットに結合します
調節ユニットは ポリユビキチンを切り離し
標的タンパクが触媒ユニットに入りやすいように
1本のポリペプチドにするとともに
触媒ユニットを押し広げます
触媒ユニット内には
タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が存在していて
その作用により
タンパク質はペプチド断片に分解され 外に排出されます
このようにして タンパク質は分解されます
@タンパク質分解の意義
ユビキチン・プロテアソームシステムによるタンパク質分解は
細胞分裂・増殖周期の制御
抗原提示
タンパク質の品質管理
などの生体機能の制御に関わっています
「免疫プロテアソーム」と呼ばれる
MHCクラスⅠ結合ペプチド(内在性抗原エピトープ)を
効果的に生成できるように機能変化し
細胞内タンパク質を分解して内在性抗原を作る
特殊なプロテアソームも存在し
インターフェロンγなどのサイトカインで誘導されます