甲状腺の病気はなぜ起きる?
甲状腺の病気の方は 全国で500万人もおられ しかも増加傾向にあります 最も頻繁にみられる甲状腺の病気は 甲状腺の機能が亢進する 甲状腺機能亢進症(バセドウ病) 低下する甲状腺機能低下症(橋本病) です 20代から40代の女性にたいへん多く 全体では1対9で女性患者の方が圧倒的に多い バセドウ病の男女比は1対4 橋本病の男女比は1対20 では どうしてバセドウ病や橋本病は 発症するのでしょう? <原因は自己免疫反応!> バセドウ病 橋本病ともに 自己免疫反応によって発症します 免疫反応とは 体の中に細菌やウイルスや異物が侵入してきたら それを攻撃して排除しようとする 体にとって重要な防御機構・生体反応です マクロファージ・リンパ球・好中球などの さまざまな細胞や 抗体・補体などさまざまなタンパク質が 免疫反応に参加します ところが なんらかの原因で 免疫機構に異常が生じて 自分自身の細胞を ウイルスや細菌と勘違いして認識してしまい それを排除しようとしてしまうことがあります この病的な状態が自己免疫反応で 自己免疫反応が原因で発症する病気を 自己免疫疾患と呼びます 慢性関節リウマチ SLEなどが 代表的な自己免疫疾患ですが バセドウ病や橋本病も この自己免疫疾患の仲間です つまり 甲状腺に対する自己免疫反応により 病気が生ずる 自己免疫疾患の発症機序は複雑ですが 自らの細胞を認識する自己抗体が産生され それが自らの細胞を攻撃するために 病気になるタイプがあります バセドウ病や橋本病は この自己抗体が病態に関与する病気です ではバセドウ病や橋本病では どのような自己抗体が産生され どんな悪さをしているのでしょう? <バセドウ病で認められる自己抗体> バセドウ病では 次の二種類の自己抗体が産生されます *TRAb:TSHレセプター抗体 *TSAb:TSH刺激性レセプター抗体 治療前のバセドウ病では いずれの抗体も95%以上で陽性になります 中心となって病態形成に関わるのはTRAbです いずれも甲状腺細胞の表面上に存在する TSHレセプター (TSHが甲状腺を刺激する時に結合するタンパク質) を認識する抗体で TRAbの方が鋭敏なので 主にこちらを測定することが多い バセドウ病は TRAb TSAbがTSHレセプターを刺激するため 甲状腺ホルモン分泌が過剰になる 病気なのです この自己抗体の力価が高いほど 活動性・機能亢進症状が強くなりますし 治療でバセドウ病が鎮まってくると 自己抗体の力価も低下してきます そのため 治療効果の評価のため測定され 免疫異常がおさまっているかどうかの指標としても 測定されます また 薬をやめても大丈夫かどうかの判断にも有用で 薬をやめた後の再発の予想時にも参考にされますし 自己抗体が陰性化しないと薬はやめられません <橋本病で認められる自己抗体> 橋本病では 次の二種類の自己抗体が産生されます *TgAb:抗サイログロブリン抗体 *TPOAb:抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 TgAbは90%で TPOAbは70%で 陽性になります 抗サイログロブリン抗体は 甲状腺ホルモンが作られる土台になるタンパク質の サイログロブリンを認識し 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体は ヨードをサイログロブリンに結合させる酵素である 甲状腺ペルオキシダーゼを認識します しかし バセドウ病における自己抗体とは異なり これらの抗体自体は 直接的にホルモン産生を抑制する作用はないので 抗体値が高くても過度に心配する必要はありません また バセドウ病のように 治療により抗体力価が低下することもないので 診断時には有用ですが 治療反応性の評価には不向きです 抗ペルオキシダーゼ抗体の代わりに 抗マイクロゾーム抗体 で代用することもあります このように バセドウ病や橋本病が疑われた場合には 血液検査でこうした自己抗体を測定することが多いですし バセドウ病では治療経過中にも定期的に測定します そのため 主治医との会話のなかで これらの自己抗体に関する話題が出てくる頻度も 高いはずです ですから それぞれの抗体にどういう意味合いがあるのかを 理解しておくことは重要ですから その参考にしていただけると幸いです さて ご説明したように バセドウ病も橋本病も自己免疫疾患ですが 多くの自己免疫疾患では治療に 副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤などの 比較的強い副作用のある薬剤が使われることが多いのですが これからバセドウ病・橋本病の解説で説明するように バセドウ病も橋本病も 免疫抑制剤を使わなくても改善します そういう意味では 非典型的な自己免疫疾患と言えるかもしれません
高橋医院