脳と心臓の細胞は何が違う?
エピジェネティクスとは *DNAの塩基配列の変化はない けれど *ゲノムが後天的に修飾される ことで *遺伝子発現パターン (どの遺伝子が読まれ 読まれないか)が決まり *それにより 作られるタンパク質の種類や量が違ってくるので 体質が規定される という現象であることを前回説明しました しつこいようですが ポイントは *DNAの塩基配列には変化がないのに *後天的な環境因子の刺激により *作られるタンパク質の種類や量が違ってくること です ここは大切な点ですので しっかりと理解されてください また 後天的な環境因子には 栄養素・代謝物・化学物質などが含まれていることも 重要です だから 胎児のときのお母さんの栄養状態などにより 遺伝子発現のパターンが変化して それが遺伝子に記憶として維持され体質となるわけです ここも大切な点ですので しっかりと理解されてください <エピジェネティクス制御は 遺伝子を読みやすくしたり 読みにくくしている> 「遺伝子が読まれる」ということは DNAからRNAに転写されて RNAからタンパク質が作られることです ここの詳細は「ネコでもわかる遺伝子のお話」で 説明しましたので 忘れてしまった方 興味がある方は 復習されてください 逆に「遺伝子が読まれない」ということは DNAからRNAに転写されず タンパク質が作られないことです エピジェネティクス制御 が行っているのは 遺伝子を読みやすくしたり 読みにくくしている こと つまり DNAからRNAに転写されやすくする または されにくくする ことです 再度 ここも大切な点ですので しっかりと理解されてください <転写因子による遺伝子発現制御> では DNAからRNAへの転写は どのような機序で規定されているのでしょう? その詳細を理解するために有用な例として 前回説明した細胞が分化する仕組みについて もう一度詳しく解説します 脳や心臓の細胞は ともに同じ受精卵から分化してきます つまり受精卵も脳細胞も心臓細胞も 核には同じ遺伝子を持っています それなのに 性質の異なる脳細胞や心臓細胞が 分化してくるのはなぜか? それは 脳細胞や心臓細胞では 読まれている遺伝子の種類(パターン)が 異なるからです 下図では 皮膚の細胞 神経の細胞の 遺伝子発現パターンの差異が例示されていますが 皮膚では 遺伝子A B Cのすべてが読まれているのに 神経では 遺伝子A Bは読まれず 遺伝子Cだけ読まれている 皮膚や神経の細胞だけでなく 脳細胞も心臓細胞も それぞれ 核にあるDNAの20%ほどしか読まれていません あとの80%のDNAは読まれていない つまりRNAに転写されていない そして 読まれている遺伝子のパターンが異なるので 同じ受精卵から 異なる働きを持った細胞が分化してくる どうしてそんなことが起きるのか? それは 脳や心臓の細胞を分化させるために 重要な働きを有する 組織特異的・発生段階特異的な転写因子群 の作用によります 転写因子とは DNAのプロモーター エンハンサーなどの 特定の部位に結合して DNAからRNAへの転写を促進したり 逆に抑制したりするタンパク質です <エピジェネテイクス制御により 転写因子が目的のDNAに結合して 作用を発揮できるようになる> 脳細胞や心臓細胞の分化を規定する 組織特異的・発生段階特異的な転写因子が 結合できるDNAの部位は決まっていますから その部位に転写因子が きちんと結合できるように DNAの状態を整えておかないといけない このように 特定の転写因子が 目的の部位にきちんと結合できるように DNAの状態を整えることが エピジェネティクス制御の本質 と言えるかもしれません こうしたエピジェネティクス制御があるからこそ 脳細胞や心臓細胞に特異的な 組織特異的・発生段階特異的な転写因子群が 目的のDNAに結合できて RNAに転写され 各細胞に特異的なタンパク質が作られるので 脳細胞や心臓細胞が分化することができる そんなふうに理解して良いと思います では どのようにしてDNAは読まれやすくなるか? 転写因子が DNAのプロモーターやエンハンサ―に 結合しやすくなるか? それには *DNAのメチル化 *ヒストン修飾 という現象が関与します これこそが エピジェネテイク制御が行っていることです 次回から それらについて説明します
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