薬物性肝障害はその発症機序により

*中毒性 

*体質性 

に分けられます

発症機序による薬物性肝障害の分類の図表

<中毒性>

薬物自体 またはその代謝産物が
肝毒性を持つために生じるもので

用量依存的
(少し飲んだだけでは症状が出ず
 たくさん飲んではじめて症状が出る
薬を飲んだ全ての人に
肝障害が発生します


発症までに要する期間は
後述するアレルギー性特異体質より
長い傾向があります


有名なのが 
アセトアミノフェン・解熱消炎鎮痛薬によるもので

どんな人でも
大量に(規定量の10~20 倍以上を一度に)飲めば
高頻度に肝機能障害が出ますから

決められた用法・用量を守ることが重要です


このタイプは
 予防できますし 診断も比較的容易です

中毒性薬物性肝障害の解説図
<体質性>

厄介なのが体質性ですが

日常的にみられる薬物性肝障害の多くは 
ほとんどがこのタイプです


体質性は中毒性と異なり
一般的に用量依存性でないため 
発症の予測は困難です

しかも服用後すぐに発症せずに
一定の期間が経過してから
発症してくることもあるので
余計にたちが悪い


しかし 
原因となる薬物の服用を中止すれば
比較的速やかに改善して 
完全に治癒することが多いので
的確な診断さえつけば安心です


体質性には

*アレルギー性特異体質

*代謝性特異体質

のふたつのタイプがあります

体質性薬物性肝障害の分類図

@アレルギー性特異体質によるもの

薬剤を服用した人の
アレルギー体質により生ずるもので

薬物性肝障害のなかで 
いちばん頻度が高い

薬物の中間代謝産物の活性代謝物
肝細胞の成分と結合して
肝細胞にアレルギー反応を起こす物質が生成され

アレルギー反応が生じて肝細胞が壊れて
肝障害が起きます

非常に多くの薬物が原因になり得ます

飲んだ量に関係なく症状が出て
服用後数時間といった
早い時期の発疹で始まるなど
反応が急速な場合もありますが

多くの場合は 
薬物服用後1~8 週間で発症します

他の人が服用しても何も問題ない薬でも 
別の人では少量でも 
かゆみ 発疹 じんま疹 肝機能障害
などが出ることがあり

薬を飲む前に予測することは困難です

別の薬を飲んで
アレルギーが出たことがあったり
喘息やじんま疹などアレルギー体質がある方に
起こりやすい傾向があります

薬物の服用中止により 
急速に改善するのが特徴です

@代謝性特異体質によるもの

こちらは アレルギー性より診断が困難です

薬物代謝関連酵素に
特殊な遺伝的素因がある人に起こる肝障害で

長期に及ぶ薬物投与の間に
薬物代謝異常が起こり
肝障害作用を持つ中間代謝産物が蓄積することで
肝障害が生ずると考えられています

原因となる薬物代謝関連酵素としては
前回説明した薬物代謝の第1相で働く
シトクロームP450(CYP)2A6 2D6 2C19
第1相で生じた毒性活性代謝物の解毒に関わる
GSTなどがあり

これらの酵素の遺伝子多型により
機能が変化し
それにより 
特殊な遺伝的素因が生じるとされています

このタイプは
発熱 好酸球増多などのアレルギー症状を欠き

薬によっては
6ヶ月以上(なかには2年以上)服用を続けた後に
発症することもあるので

なかなか診断されず
原因不明の肝障害として扱われることもあります

代表的な起因薬物としては
イソニアジド(抗結核薬)
フルタミド(抗アンドロゲン薬) 
バルプロ酸(抗うつ薬)
などがありますが

いかなる薬物でも起こり得るので 注意が必要です

代謝性特異体質による薬物性肝障害は
診断が困難ですが

上記の薬物代謝関連酵素の遺伝子多型解析などにより
将来は発症しやすい体質の人の予測が
可能になるかもしれません


このように
薬物性肝障害は
発症機序により大きく3つのタイプに分けられますが

各タイプによって
薬剤服用から発症に至る期間や臨床症状が異なります

次回はそうした点について説明します
高橋医院