かぜと鑑別すべき病気
前回お話ししたように かぜの主症状は 鼻水 喉の痛み 咳や痰 ですが それぞれの症状を呈するものの かぜとは異なる重篤な病気があります 単なるかぜだと思っていて こうした病気の診断が遅れると 厄介なことになりますから注意が必要です それぞれに思い当たる節がある場合は 早目に医療機関を受診してください <注意すべき鼻水> @副鼻腔炎 鼻水を中心としたかぜとの鑑別が必要なのは 副鼻腔炎です 副鼻腔というのは 顔面にある洞穴のような部位で 鼻や咽頭で起こった感染が この洞穴にも波及すると 副鼻腔炎になります 副鼻腔炎に特徴的な症状 臨床経過は *かぜをひいたあと 10日間以上 症状が続いて改善しない *いったん改善したあとに 再度 頭痛 顔面痛 咳などがでてくる *片側の顔面が痛い *うつむいたときに前頭部や頬部が重い *黄色や緑色の膿性の鼻汁がでる といったことで こんな症状や経過があれば 副鼻腔炎が疑われます 喉の痛みや 咳が軽く 症状が鼻水や顔面痛などに集中しているのも 副鼻腔炎を疑わせる所見になります 副鼻腔炎も ライノ パラインフルエンザなどの ウイルスによるものが多く 細菌によるものは2%程度ですが 症状がひどい場合は細菌性を疑い 抗生剤治療を行います @アレルギー性鼻炎 アレルギー性鼻炎も 鼻水を主訴とするがぜと紛らわしい病気です *鼻の症状だけで 咽頭痛 全身倦怠感などの症状がない *症状の発現に季節性がある といったことがアレルギー性鼻炎の特徴で かぜとの鑑別点になります <注意すべき喉の痛み> @扁桃炎 咽頭炎 咽頭痛を中心としたかぜとの鑑別が必要なのは 扁桃炎 咽頭炎です 細菌性の場合は 強い嚥下時痛をともなうのが特徴で ウイルス性では食後に改善しますが 細菌性では改善しないとされています それだけ細菌性の症状が強いということです 喉の痛みだけが強くて 鼻症状を欠く場合も 扁桃炎 咽頭炎を疑います @A群β溶連菌性咽頭炎 小児に多い病気ですが 大人でも10%ほどに認められます 急な38℃以上の発熱 咽頭痛で発症し 扁桃に白苔をともなう発赤があるのが特徴です 流行性が強い病気で 家庭でお子さんからうつされることが多い インフルエンザと同様 簡単な迅速診断キットで診断できます 当院でもキットによる診断を行っていますから 心配な方はご相談ください これら以外にも 喉の痛みを主訴とする病気には *扁桃から周囲の組織に炎症が波及してしまう 扁桃周囲炎 *扁桃周囲の結合組織に膿瘍(膿み)が形成される 扁桃周囲膿瘍 などの病気があり 食事もとれない 唾をのみ込むのもつらいほどの激しい痛みや 口が開けられないといった 激烈な症状を呈します 内科では対応が困難で 処置や治療に緊急性を有することもあり 耳鼻咽喉科の先生に処置をお願いすることになります <注意すべき咳 痰> @百日咳 あまりのひどさに吐いてしまうような咳 夜眠れなくなるような咳が 長く続く場合は 百日咳を疑います @細菌性肺炎 *悪寒をともなう38℃以上の発熱がある *上気道症状が先行し いったん改善後に 発熱をともなう症状がでてくる *鼻水や咽頭痛を ともなわない *咳が1日中出て 寝汗がある *呼吸数が1分間に25回以上ある といった場合には 細菌性肺炎を疑います また 38℃以上の発熱がなくても 高齢者や呼吸器の基礎疾患がある人が 寝汗があれば 肺炎を疑います こうした症状が月単位で続く場合には 結核も疑わなければなりません いずれも 抗生剤治療が必要ですから 思い当たる節が ある場合は 早目に医療機関の受診をお勧めします @非定型肺炎 咳や微熱が1~2週間続く または 38℃以上の熱が3日以上続く なおかつ 鼻汁 咽頭痛もある場合は マイコプラズマ クラミジア レジオネラ などによる非定型性肺炎を疑います これらの病原体は 細菌とウイルスの中間的存在なので 肺炎とかぜの両方の症状を示すのが特徴です また 流行性が強いので 最近流行っているかの情報も 診断の参考になります やはり 抗生剤治療が必要です 一方 かぜのあとに 何週間にもわたり長引く咳には ウイルスや細菌の感染が関係しない病態もあります こうした状態は 遷延性咳嗽 慢性咳嗽とよばれ さまざまな原因により起こります @感冒後咳嗽 *咽頭痛に続いて咳が出てきて 喉は良くなっても咳が続く *数週間にわたって持続することもある *咳以外の症状はない *夜 床につくと咳が強くなる こうした症状の多くは 病原体排出後の気道上皮の修復過程で 起こってくる反応性のものなので 心配な病気ではありませんが 患者さんは肺炎や肺がんを心配して 受診することが多いのも事実です 注意すべきポイントは かぜの症状がいったん改善したあとに 膿性痰をともなって増悪するかどうかで そうしたときは 肺炎などが疑われますから要注意です @咳喘息 かぜが治ったあとに咳が続き 咳喘息に移行することもあります *夜間から早朝にかけて悪化する 眠れないほどのひどい咳がある *症状に 季節性 変動性がある といったことが特徴で 吸入薬で改善することが多い病態です 繰り返しになりますが 鼻水 喉の痛み 咳や痰 などが ほぼ同時やわずかな時間的差異で現れてくる場合は かぜと考えて間違いありませんが *どれかひとつの症状が 他の症状をともなわず持続する場合 *他の症状が改善したのちに ひとつの症状が持続する場合は 上述の病気の可能性がありますから 早目の医療機関の受診をお勧めします
高橋医院