心房細動と脳梗塞
心房細動による脳梗塞については 脳梗塞の解説で説明しましたが 心房細動の視点から 再度説明します <心房細動の最大の合併症・心原性脳梗塞> 心房細動がある人は ない人と比べると 脳梗塞を発症する確率は約5倍高くなり 予防をしないと 1年で5% 10年で60%の人が発症します 心房細動により 左心房内の血液の流れがよどみ血栓ができ これがはがれて拍出され 脳の中の大きな血管を突然閉塞するのです 血栓の70%は 発生学的に古い心耳という部分で形成されます 血流の速さは 動脈 400mm/秒 静脈 50mm/秒 心耳 40mm/秒 心耳内の血流が20mm/秒以下になると 血栓形成のリスクが高まります <心原性脳梗塞の発症に関与する因子> @心臓病 高血圧 糖尿病 これらの疾患は 発症に大きく関与し 疾患がないと たとえ心房細動があっても 脳梗塞の発症率は正常人と変わりません @心房細動の発作性と持続性 発症頻度に差はなく 心房細動の存在そのものが 脳梗塞の危険因子になります 特に24時間以上持続する発作がある人は 脳梗塞のリスクが高いとされます <発症リスクスコア> 発作や症状がなくても 心房細動を放置すると脳梗塞を起こしやすいとされ 初めて発作を起こしてから1年間は 発症リスクが高いので 何らかの予防策をとる必要があります @脳梗塞のリスクが高い人を判定するCHADS2スコア 症状がない心房細動でも ある人と同様の確率で脳梗塞が起こるので どういう人に予防的な抗凝固療法を行うかが 重要なポイントになります 心房細動患者さんが脳梗塞を発症する危険因子は *心不全(C) *高血圧(H) *年齢(A:75歳以上) *糖尿病(D) なので それぞれがあると各1点 また 脳梗塞や一過性脳虚血発作の既往(S)があると2点 として合計6点満点でスコアリングします この点数が高いほど 脳梗塞の危険性が高いことが示され 年間発症率は点数の2倍です CHADS2スコアが2点以上だと 必ず抗凝固療法を開始した方がよく 最近は 1点の患者さんでも 開始した方がよいとされています @チャズバスクスコア CHADS2をアレンジした新たな指標です *心筋梗塞・狭心症の既往 末梢動脈疾患・大動脈プラーク の既往(V) *65歳以上74歳以下 *65歳以上の女性 の各項目(1点ずつ)が加わり これで0点ならば 抗凝固療法は必要ないとされています 65歳以上では 脳梗塞のリスクが増えているため こうしたアレンジがなされました <心原性脳梗塞予防のための抗凝固治療> 心房細動患者さんの脳梗塞を予防する目的で 抗凝固薬治療が行われ 年間発症率を 5%から1%に減らせています 詳細は脳梗塞の解説で説明しましたが 予防 再発予防のためには 一生飲み続けなければならなりません @ワルファリン 代表的な抗凝固薬のワルファリンは 適切な服用量が 人により異なります 1か月に1回 PT-INRにより血液のサラサラ度を測定し 服用量を微調整します PT-INRは ワルファリンを服用していない人は1.0で 抗凝固作用は1.6を越えると現れてきます 2未満で脳梗塞発症リスクが多く 3を超えると重篤な出血が多く現れます 70歳未満では 2.0~3.0 70歳以上では 1.6~2.6 に保ちます また 1週間中止すると 1%の確率で脳梗塞が起きるので 歯の治療などで安易に中止しないことが大切です @直接作用型経口抗凝固薬(DOAC) 2011年以降に 直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が 使えるようになりました この薬の詳細は脳梗塞の解説で説明しましたが 流れとしては ワルファリンからDOACへと傾いています 但し 脳梗塞の発症予防効果は ワルファリンもDOACもほぼ同一と 報告されています
高橋医院