新型コロナウイルスに感染後に改善し
PCRで陰性化したのちに再度PCRが陽性化する
いわゆる「再感染例」と称される状態の解釈に
疑問が投げかけられ始めた7月に

「いや 本来の意味での再感染は起こり得る」

という研究が
世界各地から相次いで報告され始めました

@イタリアからの報告

まず IgM抗体が再陽性化した再感染例
イタリアから報告されました

イタリアからの報告

この患者さんは 初感染から回復後
6回もPCRで陰性を示し
IgM抗体が陰性化し IgG抗体が陽性化しました

その後 新型コロナ陽性患者と濃厚接触したため
最後のPCR陰性から15日目に
再度PCRを行ったところ 陽性が認められ
陰性化していたIgM抗体は再陽性化しました
(IgG抗体は高値のままでした)

再陽性化した症例の臨床経過図

このとき 患者さんは
無症状で CTで肺炎像は改善したままでした

この報告は
初感染で得た免疫機構が再感染を防げるか?
という視点にこだわったものですから
ウイルスの分離やシークエンスはされていませんが
IgM抗体が再陽性化したことに注目して
再感染の可能性を示唆しています

筆者らは
IgG抗体は 再感染を防げなかったが
無症状に留まらせた可能性はあるとし
ウイルスの再感染阻止には
抗体でなくTリンパ球が重要であろう
と考察しています


そして8月後半になり 世界を駆け巡るニュースが
香港から発信されました

香港での再感染例を伝えるニュース

@香港からの報告

香港の再感染例を報告する論文
香港に在住する33歳の患者さんが
3/26に軽度の感冒症状で入院し
PCRで新型コロナウイルス陽性と判明しました

短期間の療養で症状は鎮静化し
4/5にはIgG抗体が陽性化し
4/26にPCRで陰性化を確認して退院され
後遺症もなく生活していましたが

8/15にスペインに渡航し
香港に帰国時に
無症状でしたが検疫でPCR検査をしたところ
なんと陽性と判定されました

最初の感染後のPCR陰性確認後
143日間の間隔を経て
再度PCR陽性になったのです

この時 IgG抗体は陰性でしたが
5日目には陽性となりました

注目されたのはここからで

初回とPCR再陽性化時に分離されたウイルスの
全ゲノムシークエンスを行い比較したところ

Bリンパ球とTリンパ球のエピトープを含む
スパイクタンパク質などの9種類のタンパク質にわたり
23個の塩基の差異
12種類のアミノ酸残基の差異がみられたのです

認められた塩基 アミノ酸残基の変異部位を示す図

つまり
PCRが再陽性化した際にも
活性を有するしっかりしたウイルスが感染していて

なおかつ
最初の感染時のウイルスと再感染時のウイルスは
ストレインが異なる

ことが判明したのです

ストレインが異なることを示す図

新型コロナウイルスに1回感染しても
ウイルスが変異すると
もう1回感染してしまうということです

こうしたことは
インフルエンザでも毎年起こっていることですが
新型コロナウイルスでも起こることがわかり
かなりの衝撃が広がりました


@アメリカからの報告

また アメリカからは
25歳の再感染例が報告されました

アメリカでの再感染例を伝えるニュース
アメリカの再感染例を報告する論文

4/18に軽度の症状で受診し PCRで陽性が判明
療養後に改善し 5/26にPCRは陰性化しましたが
6/5に再度 自覚症状が出てPCRが再陽性化し
6/6にIgM IgG抗体の出現が認められました

4月に分離されたウイルスのゲノム配列と
再陽性化した6月に分離されたウイルスのゲノム配列を比較すると

変異を起こしている部位が異なり
4月に特有な変異が4種類 6月に特有な変異が6種類
それぞれ認められ

初感染 再感染時のウイルスで認められた変異を示す図

この患者さんでは
変異部位が異なるストレインのウイルスによる再感染
認められることが明らかになりました

初感染 再感染時のウイルスのストレインが異なることを示す図


@ベルギー オランダからの報告

さらに ベルギー オランダからも
異なるストレインによる再感染が報告されています

50歳代の女性が 3月に新型コロナウイルスに初感染し
症状は軽度ですぐに退院でき PCRでも陰性化しましたが
6月に別のストレインに再感染したことが
それぞれの時期に分離されたウイルスの全ゲノムシークエンスで
明らかにされたのです

ベルギー オランダからの報告

このように

初感染時の改善後のPCR検査の偽陰性でもなく
残存していたウイルスの再活性化でもなく

ゲノム配列が異なる新たなストレインによる
正真正銘の再感染が起こることが
しっかりと証明されました


@免疫は働いているのか?

新型コロナウイルスに対する
抗体 Tリンパ球反応については各報告でまちまちなので
はっきりとしたことは言えませんが

報告されたいずれの患者さんも
特に再感染時には症状がほとんどなく
初感染時に誘導された免疫により
再感染時の症状が抑えられたのではないか
という推測もなされています


@ワクチンへの影響は?

いずれにせよ 新型コロナウイルスでも
ウイルスが変異すると
再感染が起こり得ることが明らかにされたことから

期待されているワクチンが完成しても
今 行われているインフルエンザワクチンのように
ワクチンは定期的に内容を変更せねばならず
毎年接種しないといけなくなるかもしれません

開発中の新型コロナウイルスのワクチン

新型コロナウイルスの変異が
どの部位にどれくらいのスピード 頻度で起こるかが
焦点のひとつになると考えられます

このウイルスは 本当に色々な面で厄介です

 

高橋医院