胆石にともなう胆管炎
前回の胆のう炎に続いて 胆石に合併することが多い胆管炎について解説します <急性胆管炎> @原因 *結石による胆管閉塞 *それにともなう胆汁中の細菌増殖 により起こります 胆管結石が主たる原因のひとつで 胆石がある人が急性胆管炎を起こす頻度は 0.3~1.6%とされています 胆汁に感染が起こりやすい危険因子は *高齢 *急性胆のう炎の既往 *総胆管結石の既往 などです また 胆管がん 胆のうがん 膵がんによる 胆管狭窄で起こる例が増えていて 全体の10~30%程度みられます @原因菌 胆のう炎の原因菌と同じで 腸内細菌の *大腸菌 *クレブジエラ *エンテロバクタ などで起こります 十二指腸乳頭部の収縮力が低下し 腸内細菌の逆行が起こります 健常人は 細菌が逆行しても感染を起こしませんが 胆道閉塞 胆汁うっ滞により 胆汁に分泌されるIgAが減少し マクロファージ機能が低下すると 免疫機能が低下して 細菌感染が起きてしまいます @症状 みぞおちから右上腹部にかけての腹痛をみとめ 悪寒 戦慄をともなう高熱がでてきます 黄疸は軽度なことが多いですが がんでは重度になります @診断 *血液検査 炎症反応(白血球数 CRP) 肝障害(AST ALT ビリルビン ALP γGTP) を測定します また 急性膵炎が合併することがあるので アミラーゼ リパーゼも測定します *エコー CT検査 原因検索のために行います *MRI MRCP検査 原因診断 炎症の評価に有用です @重症度 *重症 *意識障害 *循環・呼吸障害 *腎機能障害 *血液凝固異常をともなう肝機能障害 *DIC のいずれかをともないます *中等症 *白血球数が12000以上 4000以下 *39度以上の発熱 *75歳以上 *総ビリルビン5mg/dL以上の黄疸 *低アルブミン血症 のうちの2つが該当する または 初期治療に反応しない症例です @治療 *抗生薬 入院 絶食で 抗菌薬投与を速やかに開始します *胆道ドレナージ 重症 中等症の場合 軽症でも抗菌薬投与で24時間以内に反応しない場合は 胆道ドレナージを行います 菌が存在している胆汁を体外に排出させて 感染のコントロールを行います またこれにより黄疸も改善します 抗菌薬は そののち4~7日間は継続します 胆道ドレナージには さまざまな方法があります 経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD) 経皮経胆のうドレナージ(PTGBD) は エコーを用いて 体外から肝臓内の拡張した胆管または胆のうに 細いチューブを挿入して たまった膿を排出させます 内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD) 内視鏡的逆行性胆道ドレナージ(ERBD) は 内視鏡を用いた方法で 十二指腸乳頭部から総胆管にチューブを挿入して固定し そのチューブを介して鼻から胆汁を排出します @予後 一般的に良好ですが *高齢者 *コントロールの悪い糖尿病 は要注意です 死亡率は2.7~10%と報告されています <急性閉塞性化膿性胆管炎・AOSC>
@急性閉塞性化膿性胆管炎とは? 急性胆管炎が放置されて 胆石により胆管が詰まることによって起こる 生命にかかわる非常に重篤な病態です @敗血症が起こってしまう 胆管閉塞により 胆汁が十二指腸に流れなくなると 胆管の内圧が上昇してきて 胆汁が肝臓に押し戻されます このときに腸管内に存在する細菌が 十二指腸乳頭部から 逆行性に胆管内を上行していきます 細菌は逆行する胆汁の流れに乗り肝臓内に入り 胆汁の流れの始点である毛細胆管から 肝細胞に逆流して肝細胞を傷害します そして肝細胞の脇を流れる 類洞という毛細血管内に流入して 無菌であるはずの血液のなかに細菌が存在する 敗血症という異常な状態になり 重篤な病態を引き起こします こうなると 細菌やエンドトキシンという毒性の細菌成分が 血液を介して全身にまわり 敗血症 血管内に微小な血栓ができて詰まるDIC といった状態が引き起こされます 肺や腎臓など 全身の諸臓器が傷害を受けて 意識障害やショックをともなう 命にかかわる深刻な状況なります 急性胆管炎で重症化する頻度は 11.6%と報告されています ですから 急性胆管炎を放置するととても危険です 特に抵抗力が弱っている老人や糖尿病患者さんは要注意です 書き手も研修医の頃 糖尿病のおじいさんが胆石で入院されて あっという間に急性閉塞性化膿性胆管炎になってしまい 10日間くらい病院に泊まりこんで 必死に治療したことがあります 幸い救命することができましたが あの時の緊迫した状況は今でも覚えています
高橋医院