前回ご紹介したインクレチン
糖尿病の世界では
古くから昔から存在を知られていた名脇役に
スポットライトを当てています

その名は グルカゴン

今や某オタク系医学雑誌(笑)で
特集企画がされるほど大注目されています

オタク系医学雑誌の表紙


<グルカゴンとは何か?>

糖尿病の大スターといえば
昔も今も
血糖降下作用を有するホルモンのインスリンですが

グルカゴンもインスリンと同じく
膵臓のランゲルハンス島が分泌するホルモンです

インスリンが
ランゲルハンス島の70~80%を占める
β細胞から分泌されるのに対し

グルカゴンは
15~20%程度しか存在しない
α細胞から分泌されます


ランゲルハンス島でのα β細胞の分布


<インスリンとグルカゴンの生理的な血糖調節作用の差異>

インスリンが
血糖値が上昇したときにそれを下げるのに対し

グルカゴンは
血糖値が低下したときにそれを上昇させる生理的な働きを有し
肝臓内のグリコーゲンを分解して糖を放出させます


インスリン グルカゴンの相反する作用

ですから 血糖値を下げるという
糖尿病にとって目立つ働きを有するインスリンに比べると

グルカゴンの存在価値は
それほど重視されていなかったのかもしれません


<糖尿病におけるグルカゴンの動態>

しかし
生理的な状態では血糖上昇作用を示すグルカゴンが
糖尿病ではどうなっているかというと

健常人では血糖値が上昇すると
グルカゴンの分泌は抑制されますが

糖尿病患者さんでは
血糖値が上昇するとむしろグルカゴンの分泌が増える

つまり 糖尿病患者さんでは 
インスリンが下がるのに
グルカゴンは増える


糖尿病患者におけるインスリン グルカゴンの分泌動態

しかもランゲルハンス島の
α細胞 β細胞が占める割合を見てみると

糖尿病患者さんでは健常人と比べて
グルカゴンを分泌するα細胞が増え 
インスリンを分泌するβ細胞が減っている


糖尿病患者におけるα細胞 β細胞の増減

ということは

糖尿病では
インスリンの量が減ったり働きが悪くなっているのに加えて

グルカゴンが増えていることが
病態に関与しているのではないか?
と疑われます


さらに興味深いことに
インスリンやグルカゴンの働きを
遺伝子操作により人為的に調節したマウスでは

インスリンが働いていない状況(糖尿病の疑似病態)では
グルカゴンが働いていると血糖は上昇するけれど
グルカゴンが働いていないと血糖は上昇しない

つまり
インスリンが働かないために
血糖が上昇するという糖尿病の病態に
グルカゴン関与していることが明らかになり

糖尿病は
インスリンが足りない・働かないからおこる病気ではなく
 
インスリンの低下に加え
グルカゴンの増加のためにおこる病気である
という概念が脚光を浴び始めているのです

糖尿病の病態へのインスリン グルカゴンの関与


インスリンだけに注目するのではなく
インスリンとグルカゴンの両方に注目すべき
という考え方です


<インスリンとグルカゴンの関係>

そうなると興味深いのは α細胞とβ細胞の関係です

生理的な状態では
β細胞はインスリンなどの作用を介して
α細胞のグルカゴン分泌を抑制します

また グルカゴンは
肝細胞にKisspepsinという物質を産生させ
それによりβ細胞のインスリン分泌を抑制しています

つまり正常の状態では 
インスリンとグルカゴンは
互いを抑制しあって
うまく血糖値をコントロールしている

しかし糖尿病の状態では
β細胞が働かずインスリンの効きが悪いので
グルカゴン分泌を抑制できず
高グルカゴン血症になってしまう

またα細胞が働きすぎ
高グルカゴン血症になってしまうので
さらにインスリン分泌を抑制してしまう


高グルカゴン血症になる根本的な原因が

*インスリン不足による
 グルカゴン分泌抑制の欠如によるものなのか

*それともα細胞独自の増加によるものなのか

に関しては未だ議論が分かれるところのようですが

いずれにせよ糖尿病の病態形成においては
「グルカゴン分泌増加」
「インスリン分泌低下」に負けず劣らず関与していること
は間違いないようです

ということは
糖尿病の治療では グルカゴン分泌抑制も重要である!


そうした事情で
前回ご紹介したインクレチンが
インスリン分泌促進作用だけでなく
グルカゴン分泌抑制作用も併せ持っていることが
注目されているのです

インクレチンのインスリン グルカゴン分泌への作用

インクレチンの血糖降下作用においては
インスリン分泌促進作用とグルカゴン分泌抑制作用は
ほぼ同等の効力を有していると考えられています

まさにインクレチンが
脇役だったグルカゴンにスポットライトをあて
主役に押し上げた格好です


さて 糖尿病専門医ではないけれどミーハーな書き手は

インクレチンもグルカゴンも
プログルカゴンという同じ大きなペプチドから
切断されて生まれてくる

という現象にとても興味を持っています

プログルガゴン

母体が同じなら
どういうメカニズムで
インクレチンとグルカゴンは切り分けられるの?

その切り分けの動態は
グルカゴンが産生される膵臓と
インクレチンが産生される小腸では異なるの?

健康な人と糖尿病患者さんでは
両者の切り分け動態は異なるの?

そこにはインスリンが関与するの?

なんだか面白そうじゃありませんか?

教えて~ 糖尿病専門医の先生~!(笑)
高橋医院