糖尿病の飲み薬・昔はこんなに沢山の種類はなかったのに
インクレチンの解説でも 糖尿病の薬の話題が出たので 糖尿病の飲み薬についてまとめておきます まず どうして糖尿病になるかを 簡単におさらいします 食後に上昇した血糖を エネルギーとして利用したり 肝臓などで蓄えたりするために 膵臓からインスリンが分泌されます インスリンの分泌量が少なかったり (日本人は遺伝的にインスリン分泌量が少ない民族です) 筋肉や肝臓でインスリンがうまく利用できなかったりすると (肥満によりインスリン抵抗性になりやすい) 血糖値がどんどん上昇してしまいます 高血糖状態が持続すると それに対応してインスリンを出そうと 頑張っていた膵臓が徐々に疲弊してしまい やがてホンモノの糖尿病になってしまう これまでの解説を思い出しながら 疲れたかわいそうなβ細胞に思いを馳せてください これらの糖尿病の病態を形成する *インスリン抵抗性 *インスリン分泌不全 *高血糖状態 を それぞれ緩和する働きを有した 経口血糖降下薬があります @インスリン抵抗性を改善するのは *ビグアナイド薬 *チアゾリジン薬 @インスリン分泌を促すのが *スルホニル尿素薬 *速効型インスリン分泌促進薬 *GLP-1アナログ *DPP-4阻害薬 @高血糖状態を改善するのが *αグルコシダーゼ阻害薬 *SGLT2阻害薬 食事療法や運動療法だけでは 充分な効果が得られず 仕方なく経口血糖降下薬による治療を開始する場合は *患者さんの糖尿病が インスリン抵抗性に因るのか インスリン分泌不全に因るのか (肥満があれば前者 やせていれば後者と考えられます) *食後高血糖だけが問題なのか 空腹時血糖も既に高値なのか などを充分に考慮して 治療に用いる薬剤を決定します 以下にそれぞれの薬の特徴を簡単に説明します <インスリン抵抗性改善薬・ビグアナイド薬> 1960年代から使われている歴史のある薬で メトグルコ グリコラン といった薬がよく使われます 主に肝臓からの糖放出の抑制作用により 血糖を低下させます 副作用としての低血糖が少なく 体重を増加させることもありません ですから 肥満があり インスリン抵抗性の存在が示唆される患者さんに 用いられます アメリカの治療指針では 肥満した患者さんの ファーストチョイスになっています また後述の スルホニル尿素薬の効果が不充分な場合に 併用されることもあります しかし腎機能が低下した患者さん アルコール多飲者・肝障害のある患者さん 高齢の患者さんへの投与は 避けるべきとされています <インスリン抵抗性改善薬・チアゾリジン系> 1990年代後半から使いはじめられた薬で アクトスという薬が使われています 骨格筋や肝臓でのインスリン抵抗性を改善して 血糖を下げます 脂肪細胞の重要な核内転写因子である PPARγのアゴニストで 脂肪細胞の分化を促進し インスリン抵抗性を誘導する 大型脂肪細胞にならないようにし インスリン抵抗性を引き起こす TNFαの産生を抑制します こうした作用の総和として インスリン抵抗性が改善します 肥満があり インスリン抵抗性の存在が示唆される患者さんに よく用いられますし 後述するスルホニル尿素薬の効果が 不充分な場合に併用されることもあります 副作用として 逆に体重が増加してしまうことがあります また女性での浮腫・骨量低下があるため 高齢女性では注意を要します <インスリン分泌促進薬・スルホニル尿素薬> いちばんの古株の経口血糖降下薬で 1950年代から使われており グリミクロン オイグルコン ダオニール アマリール といった薬があります 1990年代初めの頃は90%以上のシェアでしたが その後新しいタイプの薬が次々に開発され 今は使用頻度は減少傾向にありますが 未だに重要な薬です 膵臓のβ細胞に直接働きかけて インスリンの分泌を促しますから インスリン分泌が低下していると考えられる 空腹時血糖が高い 非肥満の患者さんに 使用されます 強力に長時間におよび インスリン分泌を刺激しますから 低血糖がいちばん大きな副作用です インスリンを分泌させますから 食欲が増進して 体重が増えてしまうこともあります ですからこの薬を服用中も 食事療法を頑張っていただく必要があります また食後高血糖は抑えにくいので 食後高血糖対策で インスリンを頑張って出している β細胞をさらに疲弊させてしまう危険があり 効果が見られない場合は 漫然と使用しない注意が必要になります <インスリン分泌促進薬・速効型インスリン分泌促進薬> 1990年代から使われるようになり スターシス グルファストといった薬がよく使われます スルホニル尿素薬と同じ機序で インスリン分泌を促進しますが その作用はスルホニル尿素薬よりマイルドで 効果発現までの時間が極めて短く かつ作用持続時間も短いのが特徴です ですから 空腹時血糖は高くないが 食後高血糖がみられる 非肥満の患者さんに使用されます まだ発症してから間もない患者さん に適していて 食後高血糖による糖毒性の解除 β細胞への負担の軽減 合併症の発症・進展の予防が期待され 早期の糖尿病患者さんを 健康状態に戻すことも可能と 考えられています インスリン抵抗性も存在する可能性がある患者さんには 上述のインスリン抵抗性改善薬との併用も行われます スルホニル尿素薬と同様の 低血糖 食欲亢進といった副作用が見られます <GLP-1アナログ・DPP-4阻害薬> ここ数年で華々しく登場し 現在は日本人の糖尿病患者さんの 半数以上で使用されている薬です GLP-1アナログには ビクトーザ バイエッタ ビデュリオン リキスミア といった薬が DPP-4阻害薬には ジャヌビア エクア ネシーナ テネリア スイニー トラゼンタ オングリサ といった薬があります 既にご説明したように 小腸から分泌されるインクレチンの作用により スルホニル尿素薬や速効型インスリン分泌促進薬とは 異なる機序でインスリン分泌を促進します 血糖が高い状態でしか働かないので むやみにβ細胞を刺激せず β細胞が疲弊するのを防ぎます 低血糖になりにくく 体重増加の副作用も少ないうえに インスリン初期分泌に問題がある日本人では 特に高い効果が期待されています <糖吸収抑制薬・αグルコシダーゼ阻害薬> 1990年代に入ってから使われるようになった薬で ベイスン グルコバイ セイブルといった薬がよく使われます このお薬は食事の前に飲む必要があります 小腸における糖の吸収に必須な酵素である αグルコシダーゼの働きを阻害して 炭水化物 二糖類からの単糖類への分解を抑えることにより 糖の消化・吸収を遅くすることができます したがって 空腹時血糖がそれほど高くなく 食後高血糖がある患者さんに使われ 軽度の肥満をともなっている 比較的早期と思われる患者さんにも 投与されます 既に他の薬で治療しているが 改善が不充分といった患者さんに 併用されることもあります 腹部膨満感 おならがよく出るといった 腹部に関連した副作用があり 腹部手術をしている患者さんには 慎重に投与されるべきです <糖排泄調節薬・SGLT2阻害薬> いちばん新しいタイプの経口血糖降下剤で スーグラ フォシーガ ルセフィ デベルザ カナグル といった薬があります 以前に腎臓の尿細管における塩分の再吸収の 話をしましたが 糖分も近位尿細管に存在する SGLT2というトランスポーターを介して 再吸収されます このSGLT2の働きを阻害することにより 糖を尿中に排泄させて血糖を低下させ 体重も減少させます 腎機能低下者には慎重に投与し 高齢者は脱水に充分に注意すべきです 書き手が医学生・研修医だった約30年前は 経口血糖降下薬は スルホニル尿素薬とビグアナイド薬しか ありませんでした 1990年代に入り 糖吸収を抑制するαグルコシダーゼ阻害薬や さまざまな生体反応で活躍する 核内転写因子のPPARγのリガンドのチアゾリジン薬が 出てきたときには 「おー 新しいタイプの糖尿病の薬だ!」 と驚いたのを覚えていますが その後さらに 速効型インスリン分泌促進薬がでて 2000年代に入り インクレチン関連薬が華々しく出て いちばん新しいSGLT2阻害薬が出るに至り トレンドに追いついて行くのが 大変になってきました(苦笑) 糖尿病専門医は 「専門外の先生は これらの薬の使い分けを習得するのは 大変だと思う」 と言っていますが 確かにその通りです 書き手も 糖尿病で新しく受診された患者さんのことは 必ず糖尿病専門医に相談して 治療方針を確認していますから 最近かなりデイスカッションできるようになってきました(苦笑) 既に経口血糖降下剤を服用されている患者さんでも ご自分が飲まれているお薬がどのようなタイプか どのようにして効いているのか ご存じない方もおられると思います 今日のブログを参考にしていただき なるほどー この薬はこんな働き方をしているのか と納得していただければ幸いです 最後に申し訳ありませんが 耳に痛いことをひとこと お薬を飲まれていても 基本は食事療法と運動療法です 薬を飲まれているからといって 安心してそちらを怠けてしまっては お薬の効果も半減してしまいます また 調子が良いので お薬をやめてしまう方もおられますが それは大変危険です そうしたことをされる前に 相談にいらしてください!
高橋医院