MERS 中東呼吸器症候群
お隣韓国では 中東呼吸器症候群(MERS)の感染が拡大していて 大きな社会問題になっているようです 日本でも 厚労省健康局・都福祉保健局・日本医師会から医療機関に対して MERSに対する対応に関する通知があり 疑わしい患者さんが来院されたら 保健所に情報提供するように指示がありました 疑わしいと考えるべき患者さんは ・38℃以上の発熱 咳をともなう急性呼吸器症状があり ・症状やレントゲン所見から肺炎や急性呼吸不全が疑われ ・発症前14日以内にアラビア半島又はその周辺諸国に渡航又は居住していた ・それらの地域で医療機関を受診したり MERS患者さんと接触歴がある ・ラクダとの濃厚接触歴(未殺菌乳を飲むなど)がある といった要件をすべて満たす患者さんです なぜにラクダ?と思ったので MERSに関する最近のレビューを いくつか読んでみました 韓国で感染が広がっているMERSは MERSコロナウイルスというウイルスの感染により 生ずる肺炎で 発熱 咳 息切れなどの 通常の肺炎と同様の症状を呈するようです 高齢の方 糖尿病 慢性肺疾患 免疫不全などの患者さんでは 重症化する傾向があり 致死率は40%程度との報告があります ワクチンなどの治療法はまだないので 入院して症状を和らげる治療を 受けることになります コロナウイルスは 昔は人に鼻風邪を起こすウイルスとして 認識されていましたが 2002~2003年に中国で流行した SARS(重症呼吸器感染症)の原因が コロナウイルスとわかり 当時は一躍脚光を浴びました 8000人ほどの患者さんが発症して 10%ほどの患者さんが亡くなりました コウモリに由来するコロナウイルスの1種が ヒトにも感染するようになったと考えられましたが ひとりの患者さんが 感染させることができる人数は0.8人で 感染力はそれほど強くないことが明らかになり 感染が持続的に拡大することもなく終息しました それから約10年が経過した2012年に サウジアラビアで 肺炎と腎不全で入院されていた患者さんの喀痰から 新しいタイプのコロナウイルスが検出され 肺炎を生じさせるが SARSコロナウイルスとは異なるウイルスとして MERS(中近東呼吸器症候群)コロナウイルス という名前がつけられました このウイルスが 韓国で今問題となっているウイルスです MERSコロナウイルスによる感染は サウジアラビアなどのアラビア半島諸国で多く発症し これまでに1150人ほどの患者さんが報告され そのうちの430人が亡くなっているそうです 致死率は40%とSARSウイルスよりは高いものの 感染力はSARSウイルスよりも弱いことが 疫学調査で明らかにされています 男性に多く 50歳以上の患者さんが全体の75%を占めるようです 潜伏期は約2週間なので 文頭に記した厚労省からの通達にも 14日以内に中近東に云々という記載があるのでしょう SARSウイルスはコウモリに棲みついたウイルスで ハクビシンを介してヒトに感染したと考えられていますが MERSウイルスもコウモリが宿主の可能性があり ヒトコブラクダを介してヒトに感染したと考えられています だからラクダと濃厚接触した人は要注意なのですね 理解できました ヒトからヒトへの感染は 院内感染 家族内感染が主なので インフルエンザのように 感染力が強く拡大持続感染することはないようです 韓国では400人近い患者さんの発症が 報告されていますが そのほとんどが最初の患者さん (5月に中東を訪れ帰国後に発症)が 入院していた病院の院内感染または家族内感染です ただ最初の患者さんの診断確定前に 4か所もの病院を受診・入院し 最初は病院でMERSという認識がなかったため 隔離措置が不充分だったので 感染が拡大してしまったようです だからこそ 厚労省が必死になリ始めたのでしょうね 現段階でMERSウイルスが 日本に入ってきたという情報はありませんし 過度に心配する必要もないと思いますが 一般論として 咳がある場合は早目からマスクをした方が 咳の症状を和らげるためにも良いですし 他の人にうつしてしまう可能性も減ります 特に咳をされている患者さんは 医療機関を受診される場合は マスクの励行をお願いしたいと思います 当院では受付前に無料のマスクを置いてありますので ご自由にお持ちください 文献を読んでいて ひとつ興味深いことが書いてありました MERSコロナウイルスが細胞に侵入する際は 受容体を介して入り感染しますが その受容体はDPP-4だそうです DPP-4 覚えておいでですか? 以前にご紹介した糖尿病の治療薬のDPP-4阻害剤が 働きを抑制する分子です DPP-4という分子は 細胞の表面に存在し受容体としても働きますし 血中に遊離した分子として インクレチンを切断する酵素としても働く そんなマルチファンクションの不思議な分子のようです ですからDPP-4阻害剤を服用しているから MERSに感染しにくい といった単純なことはないでしょうが なんとなく不思議な感じがしますね、、、
高橋医院