時計遺伝子
昨日ご紹介した慨日リズムは 時計遺伝子と呼ばれる 遺伝子の働きにより構成されています ちなみに ヒトで時計遺伝子が最初に同定されたのは 1997年のことで これまでに 何十種類もの時計遺伝子が同定されています <Bmal1 / ClockとPeriod / Cryptochromeによる概日リズムの形成> 主として働いているのは *Bmal1 / Clock と *Period / Cryptochrome という4種類・2組の遺伝子です まずBmal1 / Clock遺伝子から タンパクのBMAL1/CLOCKが翻訳されます (遺伝子からタンパクが作られることを 翻訳と言います 以前にご紹介しましたが 覚えておられますか?) (遺伝子は小文字 そこから出来るタンパクは大文字で表記されます) BMAL1/CLOCKは 転写因子です 転写因子は 特定の遺伝子の転写開始部位に結合して その遺伝子の発現を開始させますが BMAL1/CLOCKも さまざまな遺伝子のE-Box配列に結合して その遺伝子の発現を増強します BMAL1/CLOCKが発現増強する代表的な遺伝子が Period / Cryptochromeですが この遺伝子が作るタンパクPER/CRYは 核に移行して Bmal1 / Clockの発現を抑制します なんだか こんがらがってきましたね(笑) つまりBmal1 / Clockは 自らの発現を抑制するPER/CRYを作るので やがて発現しなくなる しかしBmal1 / Clockが発現しないと PER/CRYは産生されず減ってくるので Bmal1 / Clockの発現抑制は解かれる すると再び Bmal1 / Clockが発現するようになり PER/CRYが産生されてきて そうすると再びPER/CRYにより Bmal1 / Clockの発現が抑制され またPER/CRYは作られなくなり、、、 こうしたサイクルが 終わることなく延々と繰り返されます 大丈夫ですか? こんがらがっていませんか?(笑) こうした仕組みを ネガテイブフィードバックと呼びますが この一連の動きが 24時間周期(正確に言うと24時間ちょっと)で 繰り返されるのが 慨日リズムの正体です Bmal1 / Clockは夜に発現し Period / Cryptochromeは昼に発現する イメージです この発現の繰り返しにより 体内で慨日リズムが形成されていきます <Bmal1 / Clockは転写因子として 種々の遺伝子の発現の日内変動を規定する> 重要なのは Bmal1 / Clockが転写因子で 種々の遺伝子(標的遺伝子と言います)の発現を 増強することです Bmal1 / Clockの標的遺伝子は数百にも及び 多くのホルモン 栄養素の代謝酵素 炎症・免疫反応を調節するサイトカインなどの遺伝子発現が PER/CRYと同様にBmal1 / Clockにより活性化されます 上述したフィードバックシステムにより Bmal1 / Clockの発現には概日リズムがありますから その標的遺伝子の発現にも概日リズムが生まれ 翻訳されるタンパク分子の機能も 概日リズムが生じます つまり 昼と夜では 働くタンパク分子の種類や量が異なるのです ヒトの内分泌系 代謝系 ⾃律神経系などの 働きの慨日リズムは こうして出来上がっています <概日リズムの異常で肥満や糖尿病になるメカニズム> 時計遺伝子の発現に異常があったり 時計遺伝子そのものに異常があったりすると Bmal1 / Clockの日内変動で規定される ホルモン分泌や代謝調節の概日リズムが崩れて 非生理的な働きを示し 本来働くべき時間に働かなかったり 働かない時間に働いたりするので その結果として 肥満や糖尿病になってしまう 慨日リズムの異常により病気が生じてくるのは こうした理由によるものです 実際にBmal1は 脂肪細胞の分化 成熟脂肪細胞の機能に 関連していますが Bmal1欠損マウスでは 中性脂肪やコレステロールが上昇し インスリンの分泌不全が起こり 肥満になります またClock欠損マウスは 過食になり 脂質代謝異常 脂肪肝 インスリン分泌不全 肥満が見られます ヒトでは Clock遺伝子多型と肥満の関連が報告され 3111T/C多型は 夜型になりやすく 体重が増えやすく 食事による減量がされにくいことが 明らかにされています *ヒトの体で 24時間周期の概日リズムが形成される機序 *概日リズムが乱れると 糖尿病や肥満などの病気が生じてしまう理由 をイメージしていただくことができたでしょうか? 書き手も概日リズムの概念は知っていましたが その乱れが睡眠障害だけでなく 糖尿病などの生活習慣病の発症に関わっていることは 知りませんでした ホント ヒトの体の働きは 巧妙に調節されているものです 今日の話は少し難しかったかもしれませんが この基本を理解しておいていただくと 次回からの話をより面白く読んでいただけると思います 次回はもっと具体的な 概日リズムと健康の関連についての 興味深いお話をご紹介します
高橋医院