前回紹介した 
谷崎の春琴抄について語る番組

いちばん長い時間 語られていたのは 
やはりSMの世界でしょうか?

春琴はSで 佐助はM 
ふたりが織りなす めくるめく世界

まあ確かにこういう切り口だと 
トークは弾みますね(笑)

ゲストたちのトークで面白かったのは 
Mとしての佐助の行動の解釈でした

三味線を弾く佐助の姿

春琴の奉公人かつ弟子になることにより
春琴の意図を察することを第一とするように
育て上げられた佐助

それがいつしか
佐助のアイデンティティーとなり
もって生まれたM気質が開花した
という論理展開ですが

実は 佐助のMは わがままではないか? 
というのです

Mはどんな方法でいじられても
喜ぶわけではない

自分の好みの仕方でいたぶってくれるように S
を調教していることが多い

佐助も実は春琴を調教していたのでは? と、、、

この世界
はそれほど詳しくはないし興味もないのですが(笑)
一般的には「Sが主で Mが従」
というイメージがあります

しかし 
Mの方が主でありクリエイティブで 
Sを育てているのではないかと

Sが自分の意思でMを怒っているのではなく 
自分の好みの形で怒らせるように 
MがSにそう仕向けてているのでは?

うーん どうでもいいような気もしますが 
でも ちょっと面白い(笑)

そして平野さんは 
佐助が自ら自分の視力を奪ったのは
実は春琴の「醜くなった自分を佐助に見られたくない」
という気持ちを察したからではなく

絶対的に崇拝していた美である春琴の
変わり果てた姿を見たくない
だったら自分で自分の眼を潰してしまえ 

という
自己満足的な行為ではなかったか?
と分析します

うーん そこまで深読むですか? 
ちょっとびっくりしました

そこで鈴木杏さんが間髪入れずに
サービスのS 満足のM ですね」
と応じていたのには感心しましたが(笑)

春琴と佐助の映像

SMにまつわる話で白眉だったのは
渡部さんの 春琴抄の文体そのものがマゾである 
という分析でした

谷崎はこの作品で
現代文的書き方と古文的書き方を 
同時並行で巧みに使い分けていると

で Mには次の3層構造があり
(そんなこと初めて知りました:笑)

*蝋燭のロウの熱さや鞭の痛さを喜ぶ「素材派」

*そうした状況に身を置いていることを喜ぶ「状況派」

*次に何が起こるのだろうという空気を喜ぶ「形質派」

春琴抄では 
そうしたMの3層それぞれに呼応する文体として

*筆者が直接語る現代文体

*「春琴伝」という架空の古文の内容を引用する古文体

*他者から聞いた伝聞を他者の話し言葉で語らせる文体

が使われ

それらが場面の状況に応じて 
巧みに使い分けられている 

つまり作品の構造そのものが
マゾ的要素により形成されていて

その効果により
春琴と佐助のリアルな世界を 
ぼんやりと奥ゆかしく描けている

古文や伝聞の語り口を随所に散りばめることで
現代文で語る物語の構成や展開に 
綾や影を造ることに成功している

それこそが 
谷崎が陰影礼賛で
日本が誇るべき美として賞賛した世界である

と分析していて

なるほどね 
さすがにプロは凄いわと 書き手は感嘆しました!


で この分析に関連した個人的なエピソードですが

書き手が高校の頃に初めて春琴抄を読んだとき

最初は文体がごちゃごちゃで 
句読点がどこにあるのかはっきりせず 
とても読みにくかったのに
読み進めるにしたがい 
不思議と抵抗なくスラスラ読めるようになり

なんだかとても不思議な印象を持ったのを
憶えていますが

もしかしたら 
まさに暗さに眼を慣らしていくような感じで
徐々に抵抗なく読み進めていけるように
現代文と古文が上手く
配置・構成されていたのかもしれません

そうだとしたら 谷崎はまさに手練れです、、、

谷崎の顔写真

トークは最後に

「谷崎は自分の変態性に苦しんだのでしょうが 
 でも知性がそれを救った」

「差別される世界を描いたのに社会に恨みがなく 
 爽やかに自己完結している」

「今の社会に棲息しているオタクたちの大先輩でしょう」

といった 楽しい会話で締めくくられました

確かにこの作品 
かなりハードな内容にもかかわらず
妙な幸せもどきな読後感があり不思議な気分になります

ちなみに谷崎は 戦時中にもかかわらず

「文学の職分とは 
 人々に俗世界の労苦を忘れさせることである」

「革新ばかり叫び前へ前へ進んだ先に 
 どんな幸せが待ち構えているのであろう?」

なんて語っていたそうです

さすがです!

以前 やはりNHK-BSで
谷崎と 
彼を賞賛し文学界での地位を築くのを手助けした
永井荷風の交流を
食という観点から探った特番を見ましたが

谷崎と荷風の写真

そこでは谷崎のグルメぶりが描かれていて
関西の谷崎の転居先に
東京から逃げてきた荷風をもてなすために
戦時下にもかかわらず 
牛肉や卵を調達して牛鍋をふるまった様子が
再現されていて 
とても印象に残っています

グルメで変態 
しかも 痴性も知性を兼ね備えている

やはり 谷崎はすごいです!(笑)

久し振りに
彼の作品を読み直してみようかと思いますが

でもやっぱり 
卍とかナオミの世界は 敷居が高いかな?(笑)

猫と庄造と二人のおんな 

という作品は面白いです

猫と庄造と二人のおんなの文庫本

この作品なら良識派も楽しめますから
良い子でネコ好きの方は 
是非ご一読ください(笑)

それにしても この番組 面白かったです!

こういう番組を 
もっと作ってくれないかな、、、


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