甲状腺は何をしているの?
健康診断で 喉が腫れているので 甲状腺の精密検査をしてください と指摘されて 心配になって来院される患者さんは 少なくありません そこで 甲状腺の働きと病気について 何回かに分けて解説します 第1回目のテーマは 甲状腺の働き です <甲状腺はどこにある?> 甲状腺は 喉仏の少し下に 蝶が羽を広げたような形で存在する 重さ10~20g 大きさ縦4.5cm 横4cm の柔らかい臓器です 病気のために 腫れたり硬くならない限り 外から指で探しても 触れることはできません <甲状腺の働き> 甲状腺は 甲状腺ホルモンを作り血液中に分泌し 血液によって運ばれた甲状腺ホルモンは 全身の臓器・細胞に作用します このように全身に影響を及ぼすので 甲状腺ホルモンは 増え過ぎても不足しても 身体にとって不都合な症状をきたします 甲状腺ホルモンの働きは 全身の新陳代謝を活性化することです 脂肪や糖分を燃やして エネルギーをつくり出し 生体の熱産生を高め 体温を調節します ミトコンドリアにも直接作用して 細胞の呼吸を促進させて エネルギーを作ります 細胞のなかの核に働いて 生命維持に必要な様々な遺伝子の活動を 促進したり抑制したりします また 心臓や胃腸の働きを活発にしますし 交感神経を活性化します 胎児の発育に重要な働きをし 子どもの知能・身体の成長を促す作用 もあります <甲状腺ホルモンはどのようにして作られるか?> 甲状腺ホルモンは 海藻に含まれているヨウ素(ヨード)を材料にして 合成されます ですから ヨードが不足すると 甲状腺ホルモンが作れなくなります 甲状腺細胞の上皮には 血中のヨードを選択的に甲状腺細胞内に汲み上げる ポンプが存在し 濾胞のなかで 甲状腺ホルモンの基本骨格(サイログロブリン)と 汲み上げられたヨードが結合して ホルモンになります このときに サイログロブリンとヨードを結合させるのが ペルオキシダーゼ(TPO)という酵素です ペルオキシダーゼは 甲状腺機能亢進症の治療薬により 抑制される物質であり 甲状腺機能低下症で出現する自己抗体が 認識する物質でもあり 甲状腺の病気に深く関与します これらについては あとで詳しく説明します ということで サイログロブリンにヨードが 3個結合したものが トリヨードサイロニン(T3) 4個結合したものが サイロキシン(T4) できた甲状腺ホルモンは 甲状腺の濾胞内に溜められています 上の写真は甲状腺細胞の写真ですが 細胞のなかの薄いピンクに見える空間が濾胞で ここにホルモンが貯められています 甲状腺では主にT4を作っており 血中に存在するのは ほとんどがT4(98%)で T3の前駆体として存在しています T4が 肝臓 腎臓などに運ばれて そこでヨウ素が1個はずれてT3になりますが このT3が ホルモンとして作用します 甲状腺ホルモンの作用は T3がT4の約10倍ほど強力です 甲状腺ホルモンは分泌されると そのほとんどは タンパク質(TBG・TTR・アルブミン)と結合して 血液中を流れていますが これらと結合しているT3 T4は ホルモンとして機能することはありません しかし ごく極微量ですが タンパク質と結合していない 遊離型(Free)ホルモンも流れていて この遊離型が ホルモンとして臓器に作用します ですから *ホルモンを作る能力を調べるには FT4(ng/dl) *全身への作用の程度を調べるには FT3(pg/dl) の血中濃度を それぞれ測定するわけです この測定により 甲状腺ホルモンの過不足を 正確に知ることができます <甲状腺ホルモン分泌の調節機構> 甲状腺ホルモンの分泌は 脳下垂体から分泌されるTSH というホルモンによって調節されます TSHは 甲状腺に働きかけて 甲状腺ホルモンを作らせます 甲状腺の機能が低下すると 甲状腺ホルモン分泌が低下して 血中のFT3 FT4が低下しますが 下垂体はそれを感知し TSHをたくさん分泌します 逆に甲状腺機能が亢進すると 血中のFT3 FT4が上がりすぎて 下垂体はそれを感知して TSHの分泌を減らします 下垂体は 僅かの甲状腺ホルモンの過不足を敏感に反応して TSHの産生を増やしたり減らしたりするので TSHの値は 正常範囲を超えて高くなったり低くなったりします 一方 FT3 FT4は その産生の変化が僅かな場合は 正常範囲から大きく外れることはないため 異常値として捉えにくく 変化を見過ごすことがあり得ます しかし 仮にFT4 FT3が基準値内の値でも それが通常の状態に比べて高くなれば 下垂体はその変化を察知してTSHは下がり 逆に低くなればTSHは上がります ですからTSHを測定すれば 甲状腺ホルモンの過不足を 最も敏感に知ることができます 甲状腺の病気の状態を評価するために FT3やFT4よりも 重要なマーカーとなるわけです ということで 甲状腺の病気が疑われたら まず血中のTSH FT3 FT4を 測定することになります 甲状腺が *全身の新陳代謝に影響を及ぼす 甲状腺ホルモンを作ること *甲状腺ホルモンの産生・分泌は TSHにより巧妙に調節されていること をご理解いただけたでしょうか? 次回は どうして甲状腺の病気が起こるか 説明します
高橋医院