甲状腺機能低下症・橋本病
橋本病は 甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気です 1912年に 九州大学の橋本策(はかる)博士が 世界で初めて発見したので 世界でもHASHIMOTO thyroditis と呼ばれています 甲状腺の病気のなかで最も頻度が高く 女性が患者さんの94%を占め 女性の3~10%がこの病気に罹られています 20歳代後半以降 とくに30~40歳代に多くみられます <病態> 自己免疫反応により 自己抗体 *抗サイログロブリン *抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体) ができます この抗体が 甲状腺細胞の破壊に関与するとされており 慢性的な経過をとり徐々に病態が進行して 甲状腺機能が低下していきます 最初は 自己抗体やリンパ球が少し組織を破壊し それにより甲状腺ホルモンが少し低下すると それを察知した下垂体が TSHを分泌して甲状腺を刺激します 甲状腺に余力があれば 刺激によりホルモンを分泌するので 機能低下症状は現れません しかし病気が進んで 慢性的な炎症が持続して甲状腺破壊が進むと (下の写真のように 黒い粒のようなリンパ球がたくさん浸潤してきます) 甲状腺の余力がなくなり ホルモン分泌が実際に低下してきて 機能低下症の さまざまな症状が現れるようになります このように慢性の経過をとるのが特徴で 病気は10年単位で進行し一生続きます <特徴的な症状> 全体の70%は 症状がでてこない「潜在性自己免疫性甲状腺炎」で 症状が出る場合も 徐々にでてくるため 甲状腺の病気だと分かりにくいことがあります 代表的な症状は 下記のようなものです *甲状腺全体が均一に大きくなる(びまん性甲状腺腫) ・但し 大半の人は自分では気づかない程度の 軽度の腫れにとどまります ・のどの違和感をおぼえることもあります ・硬いゴムのようで 表面がゴツゴツしているものが多い傾向です *むくみはこの病気の主症状で 「粘液水腫」とも呼ばれ むくんだ部分を指で圧迫して へこませても元に戻るのが特徴です ・朝起きたときに手や顔がこわばる感じがし 唇が厚く 舌が大きくなることもあります ・喉頭にむくみがくると 声がしわがれて低く かすれ声になります *食欲がないのに 体重が増える 新陳代謝が低下して カロリーの消費が減っているためと むくみのために 体重は減らずにむしろ増えます *胃腸の働きが悪くなるため お腹がはって便秘になります *皮膚の表面が乾燥してカサカサし 細かい粉がふいたようになる 眉の外側部が薄くなるのも特徴です *新陳代謝が低下し 全身の熱の産生が減るため 寒さに弱くなります 夏でも暑さをあまり感じず 汗をかきません *心臓の動きがゆっくり静かになり 脈を触れると数が少なく弱く感じられます *無気力になり ものごとに対する意欲・気力がなくなり 忘れっぽくなります どこでもすぐ居眠りをするようになり 話をする時に 口がもつれたり ゆっくりしたしゃべり方になります *体のこわばり 神経痛 手足のしびれを感じる方も多い *月経や妊娠等の異常もみられます ・月経の量が多くなったり 長く続くことがある ・妊娠しづらくなる ・治療しないでいると 妊娠しても流産しやすくなる人もいます <検査所見> *TgAb(抗サイログロブリン抗体) TPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性 ・TgAbは90% TPOAbは70%で陽性 ・バセドウでも陽性になることがあります *FT4が低値 *TSH値が高値になり 重症ほどTSH値は高くなります 甲状腺関連以外の項目では 代謝がゆるやかになるため コレステロール値が上昇し AST ALT LDH CKなどの 肝臓や筋肉由来の酵素が上昇します 貧血が見られることもあります <治療> 患者さんの70%は 甲状腺ホルモンの値は正常で 本当に甲状腺ホルモン製剤による治療が 必要となる患者さんは30%程度です そのうちの20%は ホルモンの低下はあるものの自覚症状はなく 残りの10%の方に 機能低下の症状が認められます 治療に用いられるのは 人工合成T4製剤のチラーヂンSです 甲状腺が分泌するホルモンと同じ成分なので 長期にわたり服用を続けても 副作用などの問題はありません 最初は少量(25〜50μg/日)服用し 数か月かけて徐々に増やして その人の体に合った維持量を決めます 多くの場合 維持量は100〜150μg/日になります 甲状腺ホルモンが正常値内に入り 症状がとれるのには個人差があり 病気の程度などにより1~4ヶ月はかかります 単に足りない分を補充しているだけなので 長期間の治療が必要となり 基本的に一生飲み続けることになります 体調がよくなったからといって 服用を中止しないようにしてください <日常生活の注意> *昆布の食べ過ぎに注意! 橋本病の患者さんが 昆布が主原料のものを大量にとりつづけると 甲状腺機能がさらに低下して 甲状腺腫が大きくなることがあります 昆布などを食べるのをやめれば元に戻ります *イソジンのうがい薬のうがいに注意! 毎日うがいをするとヨードのとりすぎになり 甲状腺機能低下症になることがあります うがいを中止すると正常に回復します *禁煙! 喫煙は橋本病の甲状腺機能低下症をきたす リスクファクターですから 橋本病と診断されたらタバコはやめてください 橋本病は比較的多い病気ですが バセドウ病に比べると 社会的認知度が低いように感じます 橋本病による症状を 不定愁訴と勘違いされて 悩んでおられる患者さんも少なくありません きちんと診断して適切に治療をすれば 生活の質は間違いなく向上する病気なので 心配な方がおられたら すぐに専門医に相談されてください
高橋医院