なぜに男はオードブルか?
半蔵門にある国立劇場が 定期的に丸の内でレクチャーを開いていて そのご案内をいただいたので 某日 診療終了後にプチ勉強しに行きました その日のお題は 伝統芸能の中の女性・能編 「能の中の女性 -少女、優女、母、そして老女」 今年6月から 国立劇場がレパートリーとする 歌舞伎 日本舞踊 文楽 それぞれのなかでの女性の役割をテーマに シリーズで講演を行われていたようで 今回はそのシリーズの最終回の能編です 面白そうな企画だったのに 前3回はmissしましたが なんとか気がついて 最終回には参加することができました 会場は丸ビル8階の カンファレンスセンター 定員は50人で 会費はなんと1000円 お安いです! 丸の内で働く OLさんたちをターゲットにして 伝統芸能の新たな客層を 開拓しようとする企画かと予想していましたが オーディエンスは女性が8割以上ですが 意外に年齢層は高めでした やはりお能は 若い方には敷居が高いのかな?(笑) 書き手は 能のお稽古をされている知人から お話しをうかがったり 実際に能楽堂に足を運んだりしたこともあり 少しは馴染みがあり 興味もあります この日の講師は 観世流シテ方武田家の跡取り息子さんの 武田祥照(よしてる)さん 若干28歳 長身痩身の なかなかのイケメンくん 舞台でオモテ(能面)をつけるのは (業界では「オモテをかける」と言うそうです) ちょっともったいないかな?(笑) 2歳で初舞台を踏んだ彼 若々しいはきはきとした明快な語り口で 能の世界を紹介してくれます 修行の傍ら 能の普及のためのさまざまなワークショップなどを 積極的に行われているそうで わかりやすい解説の語り口を聞いて それも納得です 国立劇場の普及部門(?)の女性の方との トークの形式で 能の歴史 舞台構造 シテ ワキ 地謡 鼓や笛などについての解説から 講義は始まりました 修行の真最中の身でもある武田さんは シテ ワキ 地謡などの 役割分担の解説では 「得意技を作ってはいけない 全てをオールマイティにできなければいけない」 男女の役を演じ分けることに関する解説では 「能というものは過度な表現を抑え 余分なものを削り 本質のみを演じるものなので 男女の役を演じることに あまり大きな差は意識しないですむ」 能の修行一般に関しては 「舞台で演じるのは 氷山のほんの一角に過ぎず それは海面下に沈んでいる膨大な努力の上に なりたっている」 といった 観阿弥 世阿弥からの教えや 自らの体験談を 解説の随所に織り込んでお話しされるので なかなか興味深いです そして 能の演目の五番立 に関する話題に進んでいきました 能の五番立は 能で演じられる演目のテーマ別分類 という認識でしたが 能が栄えた室町時代に 強大なタニマチである足利将軍家などの前で 演じられるときの プログラムのような役目があるそうで 「神・男・女・狂・鬼」の 5つのテーマの演目が この順番で一日通して 演じられていたそうです まさにプログラム 武田さんは 「フランス料理のフルコースのメニューのようなもの」と いかにも現代の若者らしい わかりやすい例えをしてくれました なるほどね で 興味深かったのは この日の講義のテーマでもある女性の役割ですが 女性が主人公となる演目は 5番立のメインデイッシュにあたる 女・狂で多いそうで だから 能における女性の役割は とても大きなものがあるとか そして 女性の役柄は 年齢によって 幼子 少女 優女 母 老女 に分類され 幼女は 幼い子供が初舞台で オモテ(面)をつけず ではなく かけずに(笑)演じる役柄 少女は 霊などのピュアなイメージの役柄 優女は 恋の経験のある女性の役柄 母は 子を失うなどの理由により狂気を帯びた役柄が多く 老女は 人生の機微を物語る役柄 なかでも老女を演ずるのは難しく 能のなかでも最高峰の役柄で 60歳を過ぎて やっと演じることができるようになるとのこと 再度 なるほど、、、 でも ここまでお話をうかがっていて 天邪鬼な書き手は ふと疑問に思うことがありました なぜ メインデイッシュの演目で 女性の役柄が演じられることが 多いのでしょう? 逆に なぜ男性の役柄は 5番立の最初のオードブル(?)で 演じられるのでしょう? 講義の最後に質問コーナーがあり あまり質問がなかったので 思い切って手を挙げて こんな風にうかがってみました 「男の存在は軽いから オードブルなのですか?」 そんな突拍子もない質問に (でも会場からの失笑はとれましたよ:笑) 武田さんは真摯にこう答えてくださいました 能が栄えた室町時代は 武士が権力を握る男社会の世界 それが故に 女性という存在は ミステリアスで 崇高なものであったのかもしれません それは現代でも変わらないことでしょうが だからこそ 女性の役柄が後半のメインで演じられることが 多かったのでは? 確かに能の枠組みを作った観阿弥も世阿弥も男ですし 今は状況は変わったようですが かつては能楽師さんも 男性ばかりだったようです また 武田さんは 能楽師の立場からこんなことも言われました 能で女性を演じることは 少女から老女まで 実に幅広い年齢層を演じ分けることになる これは能楽師にとっては 非常に奥が深く 演じ甲斐のあることなのです いやー 勉強になりました 武田さん 陳腐な質問にしっかりと的確な返答をいただき 有難うございました 能を楽しむときに参考にする引き出しが 増えたように思います ということで なかなか楽しく充実した90分でした 最後の方には 弟さんとお弟子さんも登場して なかなか見ることができない 能衣装の着付け風景を見学できました 女性役を演じるときにつける長い黒髪 あれは なんと 馬のシッポの毛で出来ているのですね! 知りませんでした! いやー 久しぶりにお能を観に行きたくなりましたよ 国立劇場さん またこういう催しを続けてくださ~い!
高橋医院