エピジェネティクス制御のもうひとつの柱 
ヒストン修飾 の解説をします

<長さ2mのDNAが直径10μmの核の中に納まれている理由>

個人向け遺伝子検査の話題で 
遺伝子の解説をしたときに

全長2mもの長さの遺伝子が 
どのようにして直径10μmの小さな細胞核の中に
納められるのか?

という疑問を呈しましたが 
今日 ようやくその解答をお示しします
(実はそのときにエピジェネティクスの予告もしてあります:笑)

細胞の核の中で 
遺伝子はクロマチンという構造をとっています

クロマチン構造をとることで
2mの遺伝子を直径10μmの核に
納めることができます

まず長いひも状の遺伝子は 
ヒストンと呼ばれる球のようなタンパク質に
巻きつきます

DNAのヒストンへの巻きつきの図示

ひとつのヒストンには 
147塩基対の長さの遺伝子が
1.65回巻きついて 

次のヒストンにまた巻きついて
それを繰返して
ヌクレオソームと呼ばれる基本構造になります

ヌクレオソームが
数珠状のつながり 
さらに折り畳まれたものが 
クロマチン構造です


DNAがクロマチン構造を作る過程の説明図

長い糸が小さなビーズに絡まり 
数珠状のビーズが規則正しく折り畳まれて
小さな箱に収納されている

そんなイメージです


<クロマチンの凝集具合がDNAの転写を規定する>

あるDNAがRNAに転写されるためには
前回説明したように

プロモーター領域に
転写を促進する転写因子が結合しなくてはなりません

しかし 
クロマチン構造が
強く折り畳まれて密に凝集していると
転写因子はDNAに結合することができません

このようなクロマチンの状態を 
ヘテロクロマチンと呼びます

ヘテロクロマチン構造のなかに存在するDNAは
転写が抑制されます

一方 
クロマチン構造がゆるく
空間的なスペースに余裕があると
転写因子は
目的とするDNAに結合することができます

このようなクロマチンの状態を 
ユークロマチンと呼びます

ユークロマチン構造のなかのDNAは
転写が活発に促進されます

ユークロマチン ヘテロクロマチンの図示


<ヒストンの化学修飾がクロマチンの構造を変化させる>

ヘテロクロマチン ユークロマチンなどの
クロマチンの構造変化には
ヒストンの化学修飾が関与します

勘の良い方は もう気がつかれましたね?(笑)

はい 
このクロマチンの構造変化を規定するヒストン修飾こそが
エピジェネティクスの
もうひとつの柱になります


ユークロマチン ヘテロクロマチンの図示2

遺伝子が巻きつくヒストンの
外側に突き出たヒストンテイルと呼ばれる部分
アセチル化・メチル化・リン酸化・ユ
ビキチン・ADPリボース化・SUMO化

といった さまざまな種類の修飾が成されます

この修飾は
DNAのメチル化と同じように
それぞれの修飾に特異的な酵素により
生じます

ヒストンの化学修飾 メチル化

そして 
ヒストンがメチル化されると 
ヘテロクロマチン構造になり
絡みついているDNAは転写されにくくなる

ヒストンがアセチル化されると 
ユークロマチン構造となり
絡みついているDNAは転写されやすくなる

メチル化されると
DNAが転写されにくくなるのは 
DNAもヒストンも同じです

ヒストンには
H2A H2B H3 H4の4種類がありますが

このうちH3 H4の修飾が
特に重要とされています

ヒストン修飾によるエピジェネティクス制御 
イメージができたでしょうか?

ちなみに 
全ゲノムにわたるヒストン修飾の状態ヒストンコードと呼びます

それが今日のブログのタイトルです

<DNAのメチル化とヒストン修飾の相互作用>

ヒストン修飾と
前回説明したDNAメチル化は 
相互関係しています

たとえば
ヒストンH3がメチル化されると
そこにDNAメチル基転移酵素が呼び寄せられ 
DNAのメチル化が誘導されます

このように 
エピジェネティクスを担う主たるメカニズムである
*DNAメチル化と
*ヒストン修飾は 
相互に協調し
複雑にクロマチン構造変化の制御を行っているわけです

DNAメチル化とヒストン修飾の協調作用

また 前回 DNAメチル化で説明したように
DNAのメチル化には栄養状態が影響を及ぼしますが

ヒストンの
メチル化 アセチル化 リン酸化にも
栄養状態が影響を及ぼします


<まとめ>

エピジェネティクス制御に主に関わる

*DNAのメチル化

*ヒストン修飾 

について説明してきました

繰り返しになりますが 
エピジェネティクス制御の重要な点は

*たとえ同じDNAを有していても

*どのDNA 
 どのヒストンが
 メチル化されているかによって

*転写されるDNAのパターンが異なり 

*それにより各臓器の細胞の個性が現れ
 個々のヒトの個性的な遺伝的体質も現れてくる

ということです
そして もうひとつ重要な点は

エピジェネティクス制御は
後天的な要因 
生活習慣 栄養状態 環境因子などによって誘導され
それが がんや生活習慣病の発症に関与している可能性もある

エピジェネテイクス制御への生活習慣等の後天的要因の関与の図示

ですから
病気の人と健康な人で
DNAやヒストンのエピジェネティクス動態が
どのように異なるのか?

そうしたことを解明しようとする研究が
最前線でなされています

次回はこのシリーズの最後に
エピジェネティクスと病気の診断・治療の関連について紹介します
高橋医院