えっ 裏返しただけ?
NHKeテレで 毎週土曜夜に放映している らららクラシックは 録画してあとで見ることが多い番組です 進行役の作曲家の加羽沢美濃さんが 気持ちをストレートに表情に表わされるもの なかなか面白いし オタク系の(?)解説が また興味深いのですよ で いつぞやのテーマは ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲 悪魔に魂を売ったとまで言われた 狂気の天才ヴァイオリニスト パガニーニが作曲した主題を ラフマニノフが24種類ものアレンジを施して まとめて1曲にした作品です クラシック音楽は修行中の書き手も この曲には馴染みがあります 特に第18番目のアレンジの とてもロマンテイックなメロディは 無粋な書き手の琴線にも しっかりと触れてきます いろいろなTVコマーシャルの 音楽にも使われているので 読み手の皆さんも ああ あのメロディか と思われることでしょう ロマノフ王朝が打倒され ロシア革命に民衆が沸いた頃 ラフマニノフは 騒乱を避けるためにアメリカに亡命し 新天地で大喝采を浴びて 連日演奏活動をしていましたが そんな多忙な日々の中 全く作曲はできませんでした その理由は 単に多忙だけではなかったようで、、、 ラフマニノフは 「音楽は心から生まれ 心に届かなければならない」 と考えていましたが アメリカでの彼の心からは 曲は生まれなかった なぜなら そこには 彼の心を動かす ライ麦のささやきも 白樺のざわめきも なかったからです うーん 芸術家というのは そういうものなのでしょうね 自然にインスパイアされることが 大切なのでしょう そして10年が過ぎ 休暇で訪れたスイスのルッツェルン湖畔で 彼は久々に故郷を彷彿させる豊かな自然に出会い そこで今回のテーマの パガニーニの主題による狂詩曲 が生まれましたが 彼の頭には とんでもないアイデアが浮かんだのです そのアイデアが 件の第18番目のアレンジを生み出しました あの美しいメロディが どのようにして生まれたかというと なんと パガニーニのオリジナルの楽譜を 鏡写しに上下反転したのです オリジナルの楽譜は ラ から始まり 2音あげて ド さらに1音あげて シ と進みますが ラフマニノフは それを ラ から始めて 2音下げて ファ そして1音下げて ソ そして 調性を変える それだけで パガニーニのあのちょっとエキゾチックな旋律が 叙情豊かな心にしみいるメロディに 変わりました パガニーニのオリジナルも なかなか魅力的ですが ラフマニノフのアレンジは 全く趣が変わって 美しい、、、 楽譜を上下反転させるという そんなシンプルな技で こんなにも変わるものなの? ホントに驚きです! このアイデアを思いついたとき ラフマニノフはとても興奮して 友人への手紙に 「シューマンもブラームスも 思い浮かばなかったすごいアイデアだ! この変奏ひとつがこの曲全体を救ってくれるぞ!」 としたためたそうです ご自身も作曲家であられる加羽沢さんは このときのラフマニノフは 編曲家としてオリジナルを越えた喜びを 味わっていたのでは? とコメントされていました それにしてもラフマニノフは どうしてそんなことを思いついたのかな? スコアを見ていたら 裏返しにしたときのメロディが 突然 頭の中で聞こえてきたのでしょうか? 以前 ピアニストの伊藤さんも リサイタルで 編曲の妙について語られていましたが なるほど アレンジは奥が深いものだなと 改めて認識した次第です この番組では もうひとつ 面白いことが語られていましたが それは次回のお楽しみで(笑)
高橋医院