過敏性腸症候群の治療・2
過敏性腸症候群の薬物治療には @消化管運動調節薬 (セレキノン ナウゼリン) @高分子重合体・食物繊維 (ポリフル コロネル) @プロバイオティクス (ビフィズス菌 乳酸菌製剤など) などが 主に用いられます @消化管運動調節薬は 腸の動きを和らげて痛みをとる 抗コリン薬 (ブスコパン トランコロンなど) 消化管平滑筋や 消化管オピオイド受容体に作用して 消化管運動を調節し 下痢等を改善する オピオイド作動薬(セレキノン) 自律神経に作用して 大腸のぜん動運動を抑制し 強力な下痢止め効果を示す ぜん動抑止薬(ロペミン) 腸内神経叢のセロトニン受容体を刺激し 消化管の運動を促進して 腹痛 腹満感の改善 排便回数増加 便の性状変化 ガス量減少 などの効果が得られる セロトニン4受容体刺激薬(ガスモチン) などがあり 症状に応じて使い分けられます @高分子重合体(ポリフル・コロネル)は 便の水分を吸収して便を固めたり 逆に便を膨張させて 排泄しやすくしたりするため 下痢にも便秘にも効果が期待できるので 比較的よく用いられます @プロバイオティクスは 腸内細菌叢の解説でも登場しましたが 腸内細菌のバランスを改善することで 有益な作用をもたらす 生菌 微生物を含む薬品や食品で 微小炎症を鎮静化する 異常なサイトカインプロファイルを正常化する といった機序により 有効性があるとされています また 下痢や便秘に有効性が強い 最近注目されている薬剤があります @下痢型:セロトニン3受容体拮抗薬(イリボー) この薬は セロトニン(5-HT)という 消化管運動を調節する物質の 作用を抑えることで 腸の運動異常や 痛みを感じやすい状態を改善するもので 海外では 女性で有意な腹痛 腹部不快感 便通回数 軟便・下痢の改善がみられ 日本では 男性で有意な改善が見られますが 女性でも改善傾向はあるものの 有意ではないとされています ですから 男性での使用が推奨されていますが 検討症例が少ないが故の結果である可能性もあり 今後は女性でも有効となる可能性が 高いとされています @便秘型:粘膜上皮機能変容薬(アミティーザ) この薬は 腸液の分泌量を増やし 便の水分含有量を増やして 症状を改善させるもので 1週目から効果が現れ 2か月目以降は有意差をもって 症状は改善するとされています @抗うつ薬 抗不安薬 上記の薬剤で効果が充分に得られないときは 抗うつ薬 抗不安薬を併用すると 有効なこともあります まず 最初の薬を4~8週間使用してみて 改善すれば 継続 もしくは 中止 改善がなければ 別の薬に変更するのが一般的です 1週間ほど服用して 効果がないからと 服用を止めてしまわれる患者さんが よくおられますが 最低でも2~3週間は 飲み続けて効果をみてください 過敏性腸症候群の予後は 比較的良好です 加齢により症状は軽快することが多く 自然経過で 1年後には約40%が 診断基準を満たさなくなります しかし 機能性ディスペプシアや逆流性食道炎が合併すると QOLを低下させてしまうので要注意で 胃と腸の両方をケアすることが大切です また 心理的異常が 予後不良因子の可能性があります 不安・抑うつがあると 過敏性腸症候群の症状が消失しにいので こうした場合は 心療内科や精神科の先生と協力して 治療にあたることになります 前回ご説明したように 食生活・生活習慣を改善し ストレスの緩和を心掛け さらに医師によく相談して 必要に応じて症状を改善する薬を服用して 過敏性腸症候群と 上手に付き合っていただきたいと思います
高橋医院