インスリンの肝臓・骨格筋への作用
インスリンは 体内のさまざまな臓器の細胞に働きかけますが 主な作用の対象は *肝臓 *骨格筋 *脂肪組織 です それぞれに対する インスリンの作用の仕方を見ていきましょう <肝臓への作用> 肝臓の 糖代謝に関する生理的な働きは @食後にグルコースを取り込み グリコーゲンとして蓄える ちなみに 食後には 肝臓の重量の 8 %(大人で100~120 g)までの量の グリコーゲンを 蓄えることができます @空腹時に 糖新生やグリコーゲン分解により グルコースを放出する(糖放出) ことです インスリンは 前者の作用を促進し 後者の作用を抑制します 血中のグルコースを取込み 血中にグルコースを放出させないことにより 血糖値の維持をはかっているわけです <骨格筋への作用> @グルコースの取込み 骨格筋は 肝臓と同様に 食後にグルコースを取り込み グリコーゲンとして蓄えます しかし肝臓と異なり 骨格筋中では グリコーゲンは重量の1~2 %程度しか貯蔵できません インスリンは このグルコースの取り込みを促進します 食物から吸収されたグルコースは 消化管から肝臓に直結する門脈という 特殊な血管を経て 肝臓に取り込まれますが 門脈以外の 普通の血管内のグルコースの多くは 肝臓よりも骨格筋に多く取り込まれます ですから 骨格筋も血糖値の維持に大きく関与しているわけです @運動によるグルコースの取込みの増強 ここで 骨格筋ならではのテーマである 運動と血糖の関係について解説します 運動すると 骨格筋内に溜めこまれていたグリコーゲンが分解され エネルギー源として使われます こうしてグリコーゲンが消費されると 消費された分を補充するために 骨格筋へのグルコースの取り込みが促進され インスリン感受性も増強します つまり 運動はインスリン感受性の増強につながります @AMPK 一方 運動すると 骨格筋内ではエネルギーのATPが消費されるので そのために AMPキナーゼ(AMPK)という酵素が 活性化されます AMPKは 細胞内でATPが減ると活性化される いわば細胞内エネルギーセンサー のような物質ですが 糖質や脂質の代謝だけでなく 細胞増殖 アポトーシス 酸化ストレスなど 多くの生体反応に関わる重要な酵素です AMPKが活性化されると GULT4という 血中のグルコースを細胞内に取り込む輸送体分子が 細胞内から細胞表面に移動します GULT4とグルコースの取込みに関しては あとで詳しく説明しますが 肝臓の細胞等では GULT4の細胞表面への移動は インスリンの作用によって起こりますが 骨格筋では 運動すればインスリンがなくても GULT4が細胞表面に移動するので 骨格筋へのグルコースの取り込みが増大します このように 骨格筋では運動により インスリン非依存性のグルコース取込みが 促進するのです 糖尿病では 骨格筋でもインスリンの作用が悪くなり インスリン抵抗性の状態になって グルコースの取り込みが低下し 血糖値が上昇してしまいますが 運動すれば インスリン非依存性に グルコースの取り込みが増えるので その結果として インスリン抵抗性が改善されます 糖尿病で運動療法が勧められる理由は まさにここにあります ちなみに アディポネクチンは 運動しなくても AMPキナーゼを活性化して インスリン抵抗性を改善します アディポネクチンが善玉アディポカインである 大きな原因のひとつです @アミノ酸の取込み また インスリンは 骨格筋では 血中のグルコースだけでなく アミノ酸の取り込みも促進します 取込まれたアミノ酸は タンパク質の合成に使われ 筋肉量がアップします 筋トレ後に プロテインのみならず 少量の糖分を摂取した方が良いのは インスリンにより 筋肉へのアミノ酸取込みが促進されるからです 長くなったので 脂肪組織への作用は次回に持ち越します
高橋医院