不眠症と鑑別すべき睡眠障害
今まで解説してきたような不眠症とは 異なる機序により 睡眠障害を呈する病気があります こうした場合は 不眠症とは対処や治療の仕方が異なるので 注意・鑑別が必要です <睡眠時無呼吸症候群> *睡眠中の呼吸停止(1 時間あたり5 回以上) *強度のいびき *日中の過度な眠気 などを主症状とする病気で 高血圧 虚血性心疾患 脳梗塞の 発症要因になるので 見逃せません 有病率は 一般人口の1% 以上で 特に中年期に多く 30~60歳の男性で4% 女性では2%前後にみられます 女性では 睡眠時無呼吸があってもいびきがないことがあるので 要注意です 肥満 脂肪が多く短い首 舌が大きい あごが小さい などの理由により 上気道が閉塞することにより起こります *読書中 *テレビを見ているとき *会議や映画館などでじっと座っているとき *他人が運転する車に乗っているとき *自分で運転中 *昼間に休息しているとき *座って人と話しているとき *昼食後に静かに座っているとき などのとき 眠くなることが多い場合は リスクが大です 肥満の方は痩せるのがいちばんの治療ですが 他にも専門的な効果的な治療法がありますから 心配な方は医療機関にご相談ください <むずむず脚症候群 レストレスレッグ症候群> 入眠時に 下肢の異常感覚を感じ 動かざずにいられず そのために眠れず 入眠障害 熟眠感の欠如を訴えられます コーヒーやアルコールを飲むと 症状が出やすくなり 脚の運動によって症状は改善します 患者さんは 不眠のせいでこうした症状が生じていると考えられ まず眠らせてほしいと訴える場合が多いです 患者数は 200~500万人で 女性は男性の1.5~2倍の有病率で 加齢とともに有病率は増加します 約60%に家族性発症があります 脳内の フェリチンの欠乏 ドパミン神経系の機能異常 が関与すると推定され 治療としては *パーキンソン病の治療に用いられる ドパミンを補うレボドパ製剤 *フェリチン欠乏を改善する経口鉄剤 などが有効です <睡眠時周期性四肢運動障害> 夜間睡眠中に 周期的に何度も足や手がぴくついて 目が覚めるので 深く眠れなくなる病気です こうした症状は 睡眠の前半に 1時間に15回以上見られます 年齢とともに発症する確率が高くなり 30~50歳では5% 50~65歳では30% 65歳以上では45% に見られるというデータもあります 不眠は訴えますが 不随意運動を自覚していないことも多いようです 睡眠薬は無効で むずむず脚症候群でも使用された レボドパ製剤が有効です <概日リズム睡眠障害> 体内時計のリズムが狂うことにより 昼夜が逆転してしまう病気です 若年層に特徴的なのが 睡眠相後退型(遅寝遅起き)で 著しい入眠障害が起こり 朝なかなか起きられず 午前中にだるさ 眠気を覚えるが 午後になると改善される というパターンを示します 気分障害の合併が多く 協力性の欠如 ストレス耐性の低さ・回避傾向なども しばしば見られます 一方 高齢者では睡眠相前進型(早寝早起き)が多く 夕方から眠くなり 午後7~9時に入眠してしまい 午前3~5時に覚醒します 概日リズム睡眠障害の治療としては 早朝から午前にかけて光を浴びて 体内時計のリズムをリセットするのが有効で 最近は 体内時計の形成に関与する 睡眠ホルモンのメラトニンを 入眠時間の7時間ほど前に服用する薬物治療も 効果が得られています <うつ病> うつ病になると 9 割近くの人が何らかの不眠症状を伴い なかでも 睡眠による休養感の欠如は 最も特徴的な症状で 次いで 入眠困難 中途覚醒 早朝覚醒がみられます また 覚醒しているのに床から出られない 食欲低下 興味の減退 が起こる といった症状も見られます 一方で 不眠がある人はうつ病にかかりやすい傾向もあり 不眠症で来院される患者さんに隠れているうつ病を 見逃さないようにしなければなりません
高橋医院