帯状疱疹のワクチン
どうして 大人の帯状疱疹が 子どもにうつると水ぼうそう(水痘)になるの? それは 水ぼうそうも帯状疱疹も 水痘・帯状ヘルペスウイルス (varicella-zoster virus:VZV) という同じウイルスの感染により 発症するからです <VZVは水ぼうそうが治っても 体内で潜伏感染している> 子どもの時に 初めてこのウイルスに感染すると 水ぼうそうを発症しますが 水ぼうそうが治ったあとも 原因ウイルスのVZVは 脊髄から末梢神経が分岐する場所(後根神経節)や 眼や顔面や喉に分布する三叉神経に潜んで 体内に隠れて居残り続けます <どうして帯状疱疹になるか?> ウイルスを監視する細胞性免疫応答が しっかりと働いているときは 潜伏感染しているVZVは抑えこまれていますが 年をとられて免疫能力が低下したり ストレス 過労により体力が低下すると 潜んでいたVZVが再び増殖し活動を始め 神経を伝わって皮膚に到達し 末梢神経炎・皮膚炎をおこし 帯状疱疹として発症するわけです ですから *水ぼうそうにかからなければ 帯状疱疹は発症しませんし *水ぼうそうにかかったことがある方は 年をとって免疫力が低下すると 帯状疱疹にかかる可能性があるわけです 子どものときに 水ぼうそうにかかると VZVに対する抗体ができますが その抗体は20年ほどすると 力が弱くなってしまいます ちょうどその頃に 周りに水ぼうそうにかかった子どもがいると 弱まってきていた免疫力が再び活性化され (ブースター効果といいます) 抗体の力が強くなり 年をとっても帯状疱疹にかからないですむ しかし最近は こうしたパターンが崩れつつあり その結果として 帯状疱疹にかかる方の数が増えてきつつあります というのも 核家族化 少子化の影響で 大人になってから 水ぼうそうにかかった子どもと接する機会が減少して ブースター効果が得られなくなる また 子どもに 水ぼうそうのワクチンを接種するようになったので 水ぼうそうにかかる子どもの数が減っています 子どもへの 水ぼうそうのワクチン接種が開始されてから 水ぼうそうの患者さんは79%減少しましたが 帯状疱疹の患者さんは 90%増加しているとの報告もあります こうした事情により 帯状疱疹にかかる患者さんや 前回ご紹介した 痛みが激しい帯状疱疹後神経痛に悩む患者さんが 増加しているのです <大人への帯状疱疹ワクチン接種> こうした事情から 欧米では50歳以上の方を対象に 帯状疱疹ワクチン接種が奨励されています 事前に行われた大規模な臨床試験により ワクチン接種者は非接種者と比較して *帯状疱疹の 発症頻度は51.3% 重症度は61.1% *帯状疱疹後神経痛の発症頻度は66.5% と いずれも有意な差を持って減少していることが 明らかにされ これらが理論的な根拠となっています 日本では 子供に接種しているのと同じ帯状疱疹ワクチンを 50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防目的で 使用できるようになりました 日本の水ぼうそうワクチンは アメリカの成人用帯状疱疹ワクチンと ほぼ同等のウイルス力価を有しているので 帯状疱疹予防のためには 50歳以降に1回接種すれば ほぼ一生涯安心といわれています また インフルエンザと同じで ワクチン接種をしておけば 仮にかかったとしても症状が軽くすみ 日常生活ですら困難になってしまうほど痛みが激しい 帯状疱疹後神経痛になる危険性を減らすことができるので ワクチン接種は意義があると考えられます しかし ワクチン接種により 帯状疱疹の発症頻度は51.3%も減少しますが それでも50%近くは発症してしまいます 同じワクチンの接種で 水ぼうそうの発症は90%近く抑制されますが 帯状疱疹の抑制率は それに比べると50%と低いのが事実です つまり 同じVZVで発症しても 水ぼうそうと帯状疱疹の発症機序は 100%同一ではない可能性が考えられます また 長期に渡る追跡調査により ワクチンの効果は8年ほどで消失することが 明らかにされました <新たな帯状疱疹ワクチン> そこでアメリカでは 従来使用されていた生ワクチンに代わるものとして VZVのタンパク質gEとAS01Bアジュバントを組合わせた 新規ワクチンHZ/suが開発され 50歳代の方での有効率は97%で 70歳以上でも同等の効果があることが 昨年5月に報告されました また 帯状疱疹後神経痛への有効率も 88.8%と非常に高いものでした こうした結果を受けて 50歳以上の人への帯状疱疹ワクチンとしては 従来の生ワクチンより 新規ワクチンHZ/suの方が優れていると 結論付けられています このワクチンは 50歳以上の成人に 2カ月間隔で2回筋肉内接種を行います 日本では 2019年中に発売予定とのことです 帯状疱疹に対する医療の様子が 少し変わるかもしれません
高橋医院