悪玉アディポカイン
今日は 悪玉アディポカインの 代表選手について解説します <TNFα IL-1β> TNFα IL-1βともに マクロファージが分泌する 炎症を引き起こすサイトカインですが 肥満により誘導される大型脂肪細胞からも 分泌されることが判明しました @TNFα インスリン受容体からの 細胞内シグナル伝達機構を抑制して インスリン抵抗性をひき起こします @IL-1β インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の 細胞死誘導作用により 糖尿病の病態形成に関わります いずれも 悪玉アディポカインの代表選手と言えます そこで TNFαそのものや IL-1βの受容体に対する抗体により それらの働きを消してしまうことで 肥満やインスリン抵抗性の改善を試みる治療が 行われています まだ著明な効果は報告されていませんが 今後の発展が期待されます <RBP4> RBP4は ビタミンAのトランスポーターで 肝臓と脂肪細胞が産生します 内臓脂肪が増えて メタボリックシンドロームになると 血中RBP4濃度が上昇し インスリン抵抗性を引き起こす ことが明らかにされました RBP4によるインスリン抵抗性の誘導は 骨格筋や肝細胞の 細胞内インスリン情報伝達系の障害によると 考えられていますが 脂肪組織内に浸潤した マクロファージなどの免疫細胞に働きかけ 上述のTNFαなどの 炎症誘導性サイトカインの産生を高め そのために生じる 脂肪組織内の慢性炎症の促進により インスリン抵抗性が誘導される機序も 明らかにされつつあります 食事療法や運動療法で減量すると 血中RBP4濃度が低下します RBP4遺伝子のプロモーター部位の 遺伝子多型が糖尿病の発症と関連する との報告もあり 遺伝因子としても機能している可能性があります マウスを用いた研究では ビタミンA誘導体を用いて血中RBP4を減少させると 脂肪組織内の炎症が改善し インスリン抵抗性の改善も見られ ヒトでも同様の効果が得られるか注目されています <DPP-4> DPP-4という物質を 憶えておいででしょうか? 血糖値が高いときには インスリンの分泌刺激作用を示しますが 血糖値が低いときはインスリンを分泌させず 糖尿病の新たな治療薬として 大きく注目されているインクレチンを 以前に紹介しましたが そのときも説明したように インクレチンはDPP-4により 分解されてしまいます ですから DPP-4阻害薬が 糖尿病の治療薬として用いられていますが なんとDPP-4も 脂肪細胞が分泌するアディポカインなのです ヒトの脂肪細胞を分化・肥大化させると DPP-4を放出します そして 肥満で内臓脂肪が増えると 血中のDPP-4の量が増え 減量すると減少することが明らかになりました また 血中DPP4値は BMI 内臓脂肪量 脂肪細胞の大きさ インスリン HbA1c値と 正の相関を示し 善玉のアディポネクチンとは負の相関を示しました そしてDPP-4は インクレチンを分解するだけでなく 脂肪細胞や骨格筋での インスリンシグナル伝達障害により インスリン抵抗性を促進します このようにDPP-4は *インスリン分泌を刺激するインクレチンを 分解するだけでなく *インスリン抵抗性も誘導します そんなDPP-4が 肥大化した脂肪細胞から 分泌されるようになるのだから 肥満により糖尿病が発症するのも納得がいきます 但し 脂肪細胞が分泌するDPP-4が インクレチン分解にどれほど関与するか また DPP-4阻害剤が 脂肪細胞のDPP-4分泌に どのような影響を及ぼすかについては まだ詳しくはわかっていません 今後の研究の展開を 楽しみにしたいと思いますが DPP-4まで分泌しているなんて 脂肪細胞は本当に侮れません! そして そんなDPP-4が 減量により減るのですから 体重を減らすことの重要性が ここでも再認識されました! ということで 前回は善玉 今回は悪玉の 代表的なアディポカインについて解説しました 個々のアディポカインの作用機序は 分子レベルで詳しく解明されてきて *善玉アディポカインそのものや 受容体を刺激する物質を用いた治療 *悪玉アディポカインに対する抗体 などを用いた治療 が 動物実験で盛んに試みられており それらの一部は ヒトでの臨床研究もスタートしています ただ ヒトの体の機能は 多くの因子の相互作用により調節されています これだけ多くの種類の 善玉アディポカイン 悪玉アディポカインが どのように相互に影響しあって インスリン抵抗性や脂肪細胞の分化に関わっているのか 書き手が生きている間に その鳥瞰図を見ることが出来るのでしょうか? いつかも書きましたが 分析より統合の方がはるかに難しい ブレイクスルーが生まれることを 期待したいと思います
高橋医院