女性の動脈硬化と心血管疾患
ラグビーワールドカップの話題で 先週はお勉強ブログをお休みしましたが 女性の病気シリーズを再開します 今日は 女性の動脈硬化 心血管疾患 について説明します 動脈硬化は 狭心症 心筋梗塞 脳梗塞などの原因になり 脂質異常症 高血圧 糖尿病などにより 引き起こされますが 女性の動脈硬化の起こり方は 男性とは異なります <動脈硬化> @女性は閉経後しばらくしてからの発症が多い 男性は30代頃から増え始めますが 女性は若い頃は男性より非常に少なく 閉経後に増加し 70歳以降には男女差は消失します 閉経後すぐでなく 一定期間を経たのちに症状が現れてくるのが 特徴です 以前に説明したように エストロゲンは血管保護作用により 閉経前の女性を 動脈硬化から守っています しかし 閉経によりエストロゲンの分泌が低下し 動脈硬化が起こりやすくなり さらに前回説明したように 閉経後には 動脈硬化進行の危険因子である *高LDL-C血症 *高中性脂肪血症 *低HDL-C血症 *肥満 *高血圧 *糖尿病 なども増加するので 50~60歳代の女性の半数に 動脈硬化が起こってしまいます @エストロゲン補充療法 エストロゲン分泌低下が原因なので 閉経後のエストロゲン補充療法による 動脈硬性予防の効果が期待されますが 残念なことに現在のところ その効果は不確かです 日米のガイドラインでは 心血管疾患予防のためのエストロゲン補充療法は 基本的には行うべきでない とされています しかし 近年の研究により 閉経後10年未満にエストロゲン補充療法を行うと 動脈硬化の進展が抑制される可能性が 示唆されています また エストロゲン製剤として 結合型エストロゲン(CEE)でなく 17βエストラジオール(E2)を用いると より良い成績が得られるとの報告もあります 動脈硬化予防のための エストロゲン補充療法については 今後の研究の進展に期待したいと思います <虚血性心疾患> 動脈硬化により生ずる代表的な疾患である 狭心症 心筋梗塞などの虚血性心疾患も 男性と女性では 臨床像がかなり異なっています 男性の虚血性心疾患による死亡率は 50歳以前は女性の3~4倍と高率で 胸痛を(とくに左胸や胸の中央が痛いと) 感じることが多く 危険因子は 影響度が高い順に 高血圧 喫煙 糖尿病とされています @女性の虚血性心疾患 一方 女性では 虚血性心疾患による死亡率は 50歳以後で急激に増加し 70歳代でほとんど男女差がなくなります つまり高齢での発症が多く 男性の8~10年遅れとされています しかし罹患率そのものは 男性の1/3~1/5と低いです @女性に特徴的な症状 女性では 男性のような胸痛はむしろ少なく 胸苦しさ 悪心 呼吸困難 喉 背中 肩・腕 腹痛 などの 胸痛以外の非典型的な症状で 発症することが多いのが特徴です 労作時だけでなく 日常生活時や 精神的ストレスを受けた際の発症も多く 労作時・安静時を問わず症状が出現し その持続時間が長い さらに 症状を緩和するニトログリセリンの有効率が 50%以下と低く 冠動脈造影を行っても 器質的な狭窄が少なく攣縮も誘発されないという 男性とは異なる特徴があります @予後 男性にくらべ 重症化しやすく 予後も悪く 死亡率は男性より高いのが特徴です 高齢での発症が多いので 他の危険因子の重複も多く そうしたことが 予後の悪さに関連している可能性があります @危険因子 危険因子は 喫煙 糖尿病 です 喫煙者は非喫煙者に比べ 男性では4倍 女性では8倍の発症率があり 喫煙の抗エストロゲン作用が 関与するとされています また糖尿病の患者さんは健常人に比べ 男性では3倍 女性では6倍の発症率があります ですから 閉経後の禁煙 糖尿病管理が 女性の動脈硬化 虚血性心疾患の予防で 特に重要になります @子宮内膜症との関連 40歳以下では 子宮内膜症が存在すると 虚血性心疾患のリスクが 高くなることが報告されています また 子宮内膜症がある女性は 脂質異常症 高血圧のリスクが高く 逆に 脂質異常症 高血圧がある場合 子宮内膜症が認められるリスクが高いことも 報告されています <脳卒中> 脳卒中は 男女を問わず 要介護になる原因の第1位の疾患です @女性に特徴的な原因と発症年齢 男性の原因は 脳梗塞 脳出血が多いのに対し 女性の原因は くも膜下出血が多い また 発症のピークは 男性では50歳代 女性では70歳代で 女性でくも膜下出血が多いのは 閉経後のエストロゲンの減少が 原因となる動脈瘤形成を誘導するからとされています @危険因子 リスク因子は 虚血性心疾患と同じで 女性では 喫煙者では2倍 (男性では1.3倍) 糖尿病患者さんでは 女性2.28 男性1.83と 女性で有意に高い @予後 予後も 虚血性心疾患と同じで 女性では男性と比べて 死亡率が高く 深刻な後遺症(麻痺 寝たきり 痴呆など)が 残りやすい このように 虚血性心疾患 脳卒中ともに 閉経後の女性では重症化率が高く 生命予後も悪いため 閉経後に動脈硬化が進行しないように 閉経前から 生活習慣に充分に注意することが大切で 閉経後は 禁煙 糖尿病管理に心掛ける必要があります
高橋医院