ロダン
サンクトペテルブルクから来た エイフマン・バレエの日本公演1作目は ロダン 魂を捧げた幻想 ロダンを バレエでどうやって描くのでしょう? ロダンといえば 下衆な書き手が(苦笑)すぐに思い浮かべるのが 女性の弟子のカミーユ・クローデルとの 愛憎に満ちた激しい葛藤です 最初はカミーユの才能にほれ込んだロダンですが やがて師弟関係から男女の関係に変わり しかし内妻のローズとの関係も断てません そのうちにカミーユの才能とアイデアを 利用するようになります 端的に言うと 彼女のアイデアを盗んでしまう ロダンとの愛に破れ 彼女ひとりでは 世間からの彫刻家としての評価も得られないカミーユは やがて心を病むようになり 精神病院で残りの長い半生を過ごすことになります ロダンは 悪い男なのですよ!(笑) このお話は 映画の主題にもなり イザベル・アジャーニ“さま”が カミーユを演じた映画はとても秀逸でした そしてエイフマン・バレエでも ロダン カミーユ 内縁の妻ローズの 三角関係が描かれます 舞台は 前後二層のシンプルな装置で構成され スポットライトが要所でメリハリよく使われます 第1幕は 精神病院で苦しむカミーユの姿で幕を開けます 入院患者たちは 恐ろしい形相で内面の悩みを表現します ロダンとカミーユとの出会い ともに創作活動を行うふたりの回想の場面 ドビュッシーの「月の光」が流れるなかでの ロダンとカミーユの神秘的で美しいデュエットは なんとも言えない 甘美で美しいものでした 一方 ローズは自宅で 健気にロダンの帰りを待ちますが カミーユに夢中のロダンは彼女につれなく接します そして ダンサーの肉体を用いて 粘土の塊である彫刻作品 「カレーの市民」 「永遠の偶像」などが表現されるのが とても驚きで印象的です 作品の完成の歓喜に沸く中で カミーユはローズの存在に気付き また ロダンが自らのアイデア才能を奪おうとすることに 悩み始めます ちなみに音楽は 普通のバレエのようにオーケストラが奏でるのでなく 録音されたものが流されますが ラヴェル サン・サーンス ドビュッシー マスネ サティといった ロダンが活躍したのと同じ時代のフランス音楽が 使用されていました いずれも書き手が好きな音楽なので 余計に舞台に惹きこまれました 第2幕は カミーユがロダンのもとを去るシーンから 始まります 内部が不揃いの枠で仕切られた 四角い平面的な額縁が 舞台の左手奥に設置され ここにダンサーたちが上下にへばりついて 「地獄門」などの彫刻作品を表現します 奇抜なアイデアに 度肝を抜かれます 3人の愛憎を描くダンス ロダンの カミーユへの情熱と ローズへの愛情 カミーユとローズが 互いに相手とロダンの交わりを見て嫉妬する様子 カミーユの病んだ心の内面の描写 すがりつくカミーユを残し ロダンはローズに連れられ去っていきます カミーユは傷心のなか 製作に打ち込みますが 緑色の衣装をまとう評論家たちに評価されず レッドカードを突き付けられて 自分の作品「クロト」の前で 膝を抱えて悩み苦しみ 最後には作品を自らの手で破壊してしまいます そして精神に異常をきたし 幻想の世界に入っていくカミーユ このカミーユの心の内面を描くダンスも とても印象的なものでした 精神病院に収容されるカミーユ 精神病院の入院患者たちは 開幕のときは 苦悩に満ちた表情を示していましたが 最後には 開放的な表情も示していたことに 少し心が救われた気もしました 最後は 残されたロダンが 一心に石を打ちこみ続ける後ろ姿 本当に舞台にぐいぐいと惹きこまれていくような そんな世界が展開され 思わず息を飲んで見つめ続けました いやー 凄かったです! びっくりしました! 久し振りに 自発的に スタンデイング・オベーションしてしまいましたが オーデイエンスは総立ち状態でした はい それだけの価値が 十二分以上にありましたよ! プログラムでエイフマンさんは ロダンという作品について こんな風に語られています ロダンは 理想的な体を追い求め その内の世界を表現しようとしたが 振付家である私も これまで人間の身体の可能性を追い求めてきた 人の身体の動きを通して 人間の内面の世界 心や精神を表現し続けてきた 人の身体がもつ謎や秘密 内なる世界を見出し それを芸術で表現するという点で 私たちには共通するものがあるのです だから この作品は あらゆる芸術家にとって重要である 製作過程での苦しみと極意についての 考察でもある 彼らが 人の情熱や感情を 自らの創造物の中で いかに表現しようとしているのかということが 私の関心を引いた このバレエで 観客の皆さんに注目していただきたいことは 彫刻を創造するプロセスを 舞台上で表現している ということです 皆さんは舞台上で どのように彫刻作品が作られていくのか その過程を見ることができます 私が表現したいのは 芸術家たちが何を犠牲にしているのかということ 傑作芸術というものはいかに生まれるのかという謎 なのです 書き手は確かに ダンサーの肉体を使って彫刻作品を表現するという 斬新なアイデアにも驚きましたが なんといっても 登場人物の心の葛藤を あんなにダイナミックに バレエダンスで表現されたことに 本当に驚いたし感動しました いやー ホントにビックリしました!
高橋医院