腸内細菌叢は「臓器」である
最近 腸内細菌叢は 肝臓や腎臓と同じような 機能を有する臓器のひとつと見做されています <機能を有する臓器としての腸内細菌叢> 既に説明したように 腸内では多くの種類の細菌が 複雑な細菌叢を形成しています 最近は 腸内細菌叢はさまざまな機能を発揮する 体内のもうひとつの「臓器」であると 見做されています 腸内細菌が産生する代謝産物などが 代謝 免疫など 生体の様々な機能に影響を及ぼすのです そして重要なのが 腸内細菌叢の「多様性」です 最近の世の中では 色々なところで 多様性 ダイバーシティの重要性が叫ばれていますが 腸内細菌叢も例外ではありません 腸内細菌叢の構成細菌が偏り 多様性が消失すると dysbiosis状態になり この状態が さまざまな疾患の発症に関与するのです 何らかの原因で 特定の菌が過剰に増殖すると 細菌叢を形成する菌の種類が減少して dysbiosisになり そうした状態がさまざまな疾患で多く見られます <腸内細菌叢はどのようにして機能を発揮するか?> これまでの科学の歴史で 人が調べてきた主な細菌は 結核 コレラなどの 人を死に至らしめるような悪者でしたが 腸内細菌叢は人の健康維持に関与している いわば人にとって好ましい細菌です この新たな視点こそが 近年の腸内細菌ブームの原点になっています さて 臓器としての腸内細菌叢は どのようにしてその機能を発揮しているのでしょう? 腸内細菌叢は さまざまな物質を産生しています *代謝産物 : 短鎖脂肪酸 二次胆汁酸 *細菌の構成成分 : DNA LPS *細菌産生物質 : ポリアミン バクテリオシン などが代表的なものですが これらが *腸管の上皮細胞 免疫細胞 *神経細胞 *内分泌細胞 などに影響を及ぼすことにより 生体機能を発揮するのです <腸内細菌叢の機能> 腸内細菌叢の遺伝子を解析して その遺伝子が有する機能を調べてみると 以下に示すような 生体機能の根幹にかかわる さまざまな働きを発揮し得ることがわかりました *炭水化物の輸送 代謝 *アミノ酸 脂質の輸送 代謝 *エネルギー生産と変換 *二次代謝物の生合成 輸送 代謝 異化 *遺伝子の転写 *翻訳後修飾 *タンパク質の代謝 *シャペロンによるタンパク質の機能調節 *細胞内のシグナル伝達 *細胞内輸送 分泌 小胞輸送 *核酸の輸送と代謝 これらの検討により 腸内細菌叢の臓器としての具体的な機能には *消化による食物からのエネルギー摂取の補助 *ビタミン等の形成 *免疫系の発達と機能維持 *代謝産物の短鎖脂肪酸などによる代謝作用 *神経伝達物質の合成などによる腸脳相関を介した脳への影響 などがあることが明らかにされています <宿主と腸内細菌叢のクロストーク> このように 腸内細菌叢はさまざまな機能を発揮することが わかりましたが さらに重要で興味深いのが 宿主と腸内細菌叢のクロストークです 腸内細菌叢の影響で変化した宿主の生体環境が 今度は腸内細菌叢の形成に影響を及ぼし 相互に影響しあって 生体のバランスをとり恒常性を維持しているのです そして さまざまな要因によって 腸内細菌叢の多様性が失われ それが原因で生体の恒常性が破綻すると さまざまな疾患が起こると考えられています
高橋医院