腸内細菌叢はどうやってできるか?
書店では 健康に関する本がたくさん売られていて テレビでも 健康の話題を取り上げる番組が多いですが なかでもこのところよく見聞きするワードは 腸内細菌 だと思います 学会レベルでも 腸内細菌は注目されていて 腸を扱う消化器病の学会だけでなく 糖尿病 肥満 動脈硬化 アレルギーなどに関連する学会 さらには うつ病や自閉症に関連する学会でも 多くの人が関心を寄せる大きなトピックになっています 腸内細菌については このブログを書き始めて間もない2015年の春に 一度紹介しましたが 世は腸内細菌ブームとも言える様相を呈しているので 再度 最新の知見をまとめてみようと思います 今日は 腸内細菌叢の成立過程について説明します <生まれたときにお母さんから菌をもらう> お母さんから オギャーと生まれてくる赤ん坊 胎児は 腸内細菌を有していないと考えられています 産道で初めて さまざまな細菌に暴露される つまり 母親の膣から大量の微生物が胎児の体内に入り それらをもとに腸内細菌叢が形成されると 推測されています 生まれた途端に お母さんからさまざまな細菌をもらうわけです 出生後3~4時間で 赤ん坊の腸内では 好気性菌(大腸菌 レンサ球菌 ブドウ球菌)が増え 1010~1011個にもなります ちなみに 大人の腸内細菌の数は 1014〜1015個です そして 生後3~4日で ラクトバチルス ビフィズス菌が増えてきて 1週間でビフィズス菌が優勢になり 最初に多かった好気性菌は減少していきます <赤ん坊の腸内細菌叢形成に影響を及ぼす因子> 興味深いことに 自然分娩か 帝王切開かで 胎児の腸内細菌叢のプロファイルが異なります 帝王切開で生まれた胎児は 自然分娩で生まれた胎児に比べて 腸内細菌叢の多様性が低く ラクトバチルス菌 ビフィズス菌などの 膣由来の有益菌が少ないことが報告されています また 母乳か 人工乳かでも 赤ん坊の腸内細菌叢のプロファイルが異なります 母乳には 数百種類の微生物が存在していて 母乳で育てると 赤ん坊の腸内細菌にはビフィズス菌 乳酸菌が多く 一方 人工乳で育てると 大腸菌 連鎖球菌 嫌気性菌が増える と報告されています さて 腸内細菌叢で大切なのは 一にも二にも多様性! と考えられていて 赤ん坊の腸内細菌の多様性が減少すると 腸内細菌叢により影響を受ける免疫システムが変化して その結果 アレルギー疾患などが増加すると 推測されていますが その赤ん坊の 腸内細菌の多様性をもたらす因子のひとつに 母乳が考えられています <赤ん坊の腸内細菌叢と抗生物質> 離乳後には バクテロイドスなどの嫌気性菌が定着し ビフィズス菌は減少し 109~1010個レベルになります しかし プロファイルの個体差はとても大きい そして 3歳までに成人型のプロファイルに移行します さて 上述したように 乳幼児期の細菌叢のフローラの乱れが 成人になってからの健康状態に影響する と考えられています 肥満 糖尿病 アレルギー疾患 さらにはパーキンソン病やうつ病などの発症にも 関与することが明らかにされ 生後1000日間までの腸内細菌叢の健全な形成が 重要と考えられています このコンテクストで注目されるのが 赤ん坊への抗生物質の投与です 最初の腸内細菌叢の解説シリーズでも紹介したように 抗生物質は腸内細菌叢のプロファイル形成に とても大きな影響を及ぼし多様性が失われます 生後6か月以内に抗生物質を投与すると 大人になってから 脂肪量・体重が増加し肥満のリスクが高まり アレルギーや炎症性腸疾患のリスクも高まります ですから 治療上どうしても必要な場合意外には 生後1000日までの抗生物質の使用は 可能ならば避けた方が良いとの主張も見られます 書き手は小児科専門ではないので そうした状況に出会うことはありませんが 小児科の先生方は悩まれているのではないかと推察します
高橋医院