腸内細菌叢は
いったい何をしているのでしょう?

<腸内細菌の働き>


腸内細菌のイラスト

腸内細菌叢は
以下の3点でヒトの健康管理に貢献しています

@食物からのエネルギー摂取と
 さまざまな機能を有する代謝産物の産生

人は腸内細菌の力を借りて
食物からエネルギーを得ています

その代表例が 食物繊維の消化です

人は食物繊維を消化する酵素を持っていませんが
腸内細菌は食物繊維を嫌気的発酵により分解し
短鎖脂肪酸(酢酸 酪酸 プロピオン酸)を産生します

これらは腸内細菌が産生する「代謝産物」と呼ばれます

腸内細菌が短鎖脂肪酸を産生する過程の説明図


短鎖脂肪酸は
脂質や糖質の合成に利用されエネルギー源になりますが
それ以外にも

*食欲を抑制するホルモンの分泌

*脂質代謝の制御

*抗炎症作用

といった重要な働きを有しています

こうした重要な物質の産生に
腸内細菌叢は深く関わっているのです


@免疫機能の発達と機能の維持

無菌的環境で育った腸内細菌がいないマウスでは
獲得免疫系で働く
さまざまなT細胞(Th1細胞 Th17細胞 制御性T細胞)が
減少しています

したがって
それらの免疫細胞の分化や機能維持に
腸内細菌叢は貢献していると考えられています


@感染防御

乳酸菌が病原菌の増殖を抑制したり 
上記のように獲得免疫系を分化させたり
腸管上皮細胞の物理的防御能を増強したりすることで

腸内細菌叢は感染防御に関わっています

腸内細菌の働きをまとめた図


<腸内細菌叢の形成に影響を及ぼす因子>

このように人の健康管理に貢献している
腸内細菌叢の形成は
環境により大きく影響されます

@食事

いちばん大きな影響を与えるのは食事内容です

人が食べる食事の消化物が
腸内細菌のエサになりますから

食べる野菜の種類 食物繊維の量などにより
腸内細菌叢の様子はかなり異なってきます

たとえば 
高脂肪・低繊維食を食べている人はそうでない人に比べ
Ⅰ型エンテロタイプに属する菌種が増え

低脂肪・高繊維食に変えると
Ⅱ型エンテロタイプに属する菌種が増えてきます

このような菌種の増減が
肥満や糖尿病発症に関与すると推測されています

また アルコール摂取量 運動量 睡眠時間なども
影響を及ぼします


@抗生物質

興味深いのが抗生物質

ヒトでは 生後1年以内に抗生物質を服用していると
炎症性腸疾患の発症率が上がる

マウスでは
若い頃に抗生物質を投与されると
成長してから肥満になりやすいことが報告されていて

こうした事実から
抗生物質が腸内細菌叢の乱れを誘導し
腸の病気や肥満が惹起される可能性が示唆されています

抗生物質が腸内細菌叢を乱している様子


<多様性の重要性>

ところで 最初に紹介した
痩せた姉・太った妹のウンコを移植したマウスの実験で

痩せたマウスのウンコが
太ったマウスのウンコに打ち勝ったわけは

痩せたマウスの腸内には
色々な種類の細菌が存在しているのに対して
(特にバクテロイドスという菌の仲間が重要と推測されています)

太ったマウスの腸内には
限られた種類の細菌しか存在していなかったためでした


太ったマウスの写真

つまり
腸内細菌叢は
多様な細菌から構成されている方が良い
ようで

抗生物質や抗菌剤の多用により
必要以上に腸内細菌を殺してしまうのは
細菌のレパートリーを減らしてしまい
良くないのかもしれません

抗生物質を服用したことがあるアメリカ人の腸内細菌の種類は
服用したことがないアマゾンの原住民の
2/3しかないとの報告もあります

つまりアメリカ人の腸内細菌叢の多様性は
アマゾン原住民に比べて低いわけです

あまりに清潔という環境は
腸内細菌叢の形成にとっては
良くないのかもしれません

 

高橋医院