新型コロナ・PCR検査と抗体検査
新型コロナウイルスに関するニュースで よく見聞きするのが PCR検査 と 抗体検査 なにがどう違って どう使い分ければいいのでしょう? <PCR検査> PCR検査は 新型コロナウイルスそのものが体内にいるか 直接調べる検査です ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法という 遺伝子を連続的な反応で増幅させる技術を使用して 検体中に存在する微量のDNAを 高感度に検出します 増やしたいDNAに特徴的な配列にくっつく 短いDNA(プライマー)を用意し DNAを複製する酵素の働きを 温度を上げ下げすることで調節して 複製反応を起こさせ 目的の遺伝子を増やします この反応を25~40回ほど繰り返すことで 目標のDNA を 数時間で100 万倍にも増幅できます 新型コロナウイルスは RNAウイルスなので RNA を逆転写によって cDNA に変換し その cDNA に対して PCR法を行って 検体中の微量のRNAを増やして(RT-PCR法) いるかいないか 白か黒か 判定します 実際の新型コロナの検査では 患者さんの喉を綿棒でこすって 採取した粘液を用い そのなかの新型コロナウイルスのRNAを増幅し そこにウイルスがいるかいないか確認します 書き手が大学で実験していた頃は 毎週のようにPCR検査をやっていましたから 懐かしいです!(笑) 一方 最近 注目されているのが 抗体検査です <抗体検査> 抗体とは 生体に侵入してきた 微生物などの抗原に対して起こる免疫反応で B細胞から産生されるタンパク質で その抗原に特異的に結合して排除します 感染症から回復した人の血中には 原因となる微生物に対する抗体が存在し この抗体を有していれば 病原体が再び体内に侵入すると 抗体産生が増加されて病原体が排除されるので 二度と同じ感染症に罹ることはありません 新型コロナウイルスの抗体検査では イムノクロマト法という技術を用い ウイルスの表面に突き出た 大きなスパイク状のタンパク質と反応する抗体が 患者さんの血液中にあるか調べます さて抗体検査で調べられる抗体は IgM抗体 IgG抗体の2種類があります @抗体のクラススイッチ 抗体には IgM IgG IgA IgE IgD の5種類のクラスがあります IgMは 感染した微生物 抗原などに対して 最初に産生されます IgGは さまざまな作用が最も強く 一番多く存在する抗体です IgAは 鼻汁 唾液 腸液などに多く存在し 消化管免疫で重要な役割を果たしています IgEは アレルギー反応に関与する抗体です 産生される抗体は B細胞の活性化 成熟にともない 時間経過とともに 最初に産生されるIgMから IgGやIgEなどに変換していき この現象はクラススイッチと呼ばれます @IgM抗体とIgG抗体 IgM抗体は 微生物が感染して3~4日してから出現し やがてIgG抗体にクラススイッチして 減少していきます ですからIgM抗体が存在すれば 新たな感染が起こっていることが わかります 一方 IgG抗体は 感染してから1週ほどして IgM抗体からクラススイッチして出現し 長期間存続します ですからIgG抗体が存在すれば 過去に感染したことがわかります また 日本では 入院治療しているウイルス感染者が退院する際に PCR検査で2回続けて陰性であることが 条件となっていますが その代りにIgG抗体を測定することも 検討されているようです このイムノクロマト法を用いた抗体検査も 書き手は一時期 頻繁にやっていたことがあるので 再度 懐かしいです!(再笑) @抗体検査の問題点 現在 世界中で さまざまなキットが開発されていますが なかには精度が充分でないものもあり 信頼して使用できるかの吟味が必要です <PCR検査と抗体検査の違い> @検査結果の意味合いの違い PCR検査は ウイルスそのものを検出しますから 現在 感染しているかどうかわかります 抗体検査のIgM抗体は 感染早期であることがわかりますが 感染してから数日後に作られ始めるので 感染直後はまだ陰性で この時期の診断はPCR検査の方が優れています 抗体検査のIgG抗体は 感染後 長期間にわたり存続するため 過去に感染したことがあるかどうかがわかります @手技 要する時間などの違い PCR検査は 検体の採取が大変で 専門の検査機関で 高価で特別な機械でしか行えず 結果が出るまでに数時間かかります 抗体検査は わずかな量の血液があれば 診察室でも わずか数分で結果が得られます このように PCR検査と抗体検査は ずいぶん趣が異なります 感染しているか知りたいなら なんといってもPCR検査ですが 抗体検査には別の利用価値があります そのあたりを次回 説明します
高橋医院