集団免疫の話に転ずる前に
新型コロナウイルスならではの
免疫応答に関する
面倒くさい問題点について言及します


<改善後の再感染?>

中国から
新型コロナウイルス感染症から回復し
いちどPCR検査で陰性が確認されたにもかかわらず
数週間以内に再び軽度の症状を示し
PCR検査で陽性となった方が 
何人か報告されています

改善後の再感染を伝えるニュース

韓国でも
いったん回復してから
PCRで陽性と診断された人が
111人も報告されました


韓国からの再感染者の報告

日本でも 大阪府 北海道などで
退院した人が再び陽性になったとの
報告があります


こうした現象を 
どのように解釈すればよいのでしょう?

免疫学の常識では
感染した微生物に対する免疫応答が起こり
症状が改善して治癒したら
ほとんどの場合 その微生物は排除され
免疫が成立するので 
再感染は起こしません

だから
報告されたような現象は理解しがたい

可能性として考えられるのは

*ヘルペスウイルスのように
 完全に排除されず潜伏感染する場合

*個人の免疫能力が弱いため
 免疫の成立が不充分で再感染を許す場合

日本での再感染者のニュース

などですが

時間的経過を考えると
潜伏したウイルスの再活性化と
とらえるのは困難です


では
免疫応答が不充分だったのでしょうか?


<新型コロナウイルスに対する免疫応答は機能しているか?>

新型コロナウイルスは 新しい未知のウイルスで

しかも

*無症状の感染者でも他の人にうつす

*症状改善後もダラダラと体内に居残る

*感染は非常に速い一方 減速のスピードはかなり遅い

といった 
さまざまなトリッキーな面を有しています

もしかしたら このウイルスには
従来の感染免疫学の常識が通用しない?

感染免疫について説明する図


確かに このウイルスの感染は
始まってからまだ半年もたっていないので

*感染宿主がどのような免疫応答をして
 どのようにウイルスを排除するのか?

*成立した免疫は 
 どのくらいの期間 持続するのか?

といったことが
ほとんどわかっていないのです

抗体がウイルス排除に関わっているか?
といったプリミティブなことすら
はっきりしていません

抗体が入ったバイアル


WHOの専門家は4月13日の会見で

「新型コロナウイルスに対する
 免疫の働きについて
 我々はまだ限られた知識しか
 持ち合わせていない」

と語ったそうです

コメントするWHOの専門家

実際に
抗体の持続期間は
ウイルスによって異なるので
新型コロナウイルスに対するIgG抗体が
どれくらいの期間存続するか不明です

ちなみに同じコロナウイルスの仲間で
パンデミックを起こしたSARS MARSでは
SARSは約2年 MARSは約3年
それぞれ抗体が持続すると報告されています


一方 上海で行われた最近の研究では

感染回復後の175人の患者さんの
抗体価(抗体の力)を調べると

抗体価が
検出不能なほど低かった人が10人ほどいて
逆に非常に高い抗体価を示した人もいたことが
明らかにされました

抗体価が低い人が存在することを示すグラフ
約3割の人は
抗体価が基準値より少なかったそうです


抗体価が低い人が30%いることを示す図

抗体価が低ければ抗体は機能しないので
その人は 
再感染してしまうかもしれません


だとすれば それはどういう人なのか?

この論文では
抗体価が低い群は 中等度 高い群に比し
年齢が若いように見えますが

抗体価が低い人は若年であることを示す表

そもそも若い人は中高年より
抗体価が低いようです

年齢別の抗体価を示す図


こうした事実の積重ねを背景に
WHOは
世界各地で行われ始めた
大規模な抗体サーベイランス検査に対して

抗体が
どれくらい持続するかわかっていないし

そもそも
できた抗体がウイルス増殖を抑制するかも
わかっていない

と警鐘を鳴らしています


確かに 今のところ
新型コロナウイルスに対する免疫応答の全体像は
つかめておらず
回復した患者からのさらなる情報が必要です

性格が悪そうなウイルスなので
免疫応答に対しても
これまでに聞いたことがないような機序で
巧妙に立ち向かっているかもしれません
高橋医院