ヒトを塩のとりこにした社会変化
祖先から わずかな塩分でも取り逃さない体質を引継いだヒトは さまざまな社会変化により さらに塩の虜となっていきます @農耕による食の変化 1万2千年~8千年前に農耕が始まり この頃から塩作りも始まりました 農耕を始めたことで 祖先は穀物や野菜を多く食べるようになり この食の変化が 塩をたくさんとらなければならない必要性を高めました なぜなら 穀物や野菜には ナトリウムがほとんど含まれておらず カリウムが大量に含まれていたからです @カリウムとナトリウム 体内にカリウムが多量にあると 危険な不整脈が起こるので 腎臓は過剰なカリウムを尿中に捨てようとします その際に ナトリウムの再吸収がブロックされて カリウムとともにナトリウムも排泄されるので 体内のナトリウムが減ってしまいます 体内におけるナトリウムの保持を第一とするのが 先祖から引き継いだ教えでしたが ヒトの体は 危険な不整脈の阻止の方が大事と考え ナトリウムの再吸収よりも 過剰なカリウムの排出を優先させました そのため カリウムの多い農作物を食べれば食べるほど ナトリウム不足に陥ることになりました 前述したように ナトリウムもヒトの体の働きに必須なので ヒトはそれを補うため 大量の塩を摂取するようになったのです 当時のヒトにとって 塩は健康を守るために欠かせない薬のようなものでした この話は初耳でした! ヒトが農耕文化により野菜を摂り始め そこからカリウムが問題になり始めたというのは とても興味深いストーリーです 確かに腎臓内科では 高カリウム血症を防ぐために カリウムの体内動態 野菜や果物の過剰摂取に 神経をとがらせます だから体が ナトリウム保持よりカリウム排泄を重視するシステムを作ったのは なんとなくうなずけるのですが でも カリウム排泄の際に どうしてナトリウム再吸収が犠牲にならなければならなかったのか? その理由 メカニズムが もうひとつ釈然としないのが気にかかります @塩は貴重品 2500年前のペルシア帝国で 花開いた美食文化では 塩はさまざまな料理の味付けに使われていました また 当時のペルシアでは大量に岩塩が採掘され 塩の塊がお金ほどの価値を持っていました 岩塩は海水から作り出す塩より はるかに純度が高く鮮烈な味でした @塩はあらゆる美味しさの引き立て役 なぜ 料理において塩がそれほど重要かというと 塩は 味蕾が甘さなどの他の味を感じるときに 重要なサポート役をはたしているからです 甘味センサーの中に 糖分だけ触れても何も反応しないのに 糖分とナトリウムが一緒に触れたときだけ センサーの口が開いて甘みを感じる特別なタイプが あることが発見されたのです また 甘味と塩分を一緒に口にすると 甘味を感じる味蕾は 甘味への反応が1.5倍も強まります これがスイカに塩を振ると甘味が強くなる理由です 甘味だけでなく うま味 脂の味も わずかでも塩分が一緒だと より強く感じます 甘味であれ うま味であれ そこに少しでも塩分がともなっていれば 脳をより強く刺激し食欲を促す仕組みが備わることで ヒトはさらに わずかな塩分でも取り逃さないようになりました この話も初耳で面白かったです! 確かに塩は 経験的に万能の調味料だと感じてきましたが その理由は味蕾レベルの相互作用でしたか! 驚きました!
高橋医院