NHKの栄養シリーズ 食の起源

第2話のテーマは「塩」です

現代人は
健康に悪いと知りながら塩分を摂りすぎている

どうしてそんなことになったのか?

例によって
ヒトの進化と絡めてその謎を探っていきます


@現代人は塩を摂りすぎている

1日の塩分摂取の推奨量は
WHO 5g
日本 7.5g

そもそもヒトが1日に失う塩分量は
1.5gほどなので
1日2g程度の摂取でも生きていける

しかし 
現代の日本人男性は1日10gも摂取している

日本人は塩分を摂りすぎていることを示す表

過剰な塩分は 
高血圧や腎臓病の原因となり
健康に害を及ぼすのに
どうしてヒトは貪欲に塩分を欲しがるのでしょう?


@ヒトの祖先は海から陸へ

ヒトの祖先は 
4億年前に両生類に進化して
海の中から出て陸上で生活するようになった

進化とともにヒトの祖先は海から陸へ上がったことを示す図

2億5千年前には 乾燥した陸上でも繁殖し始めた


@塩がないと生きていけないヒトの体の仕組み

祖先は海の中で
海水中にたっぷりあるナトリウムを
体に取り込み それを利用して
生命維持のために使う仕組みを作り出した

陸に上がったヒトも
その仕組みを引継いでいるので
ナトリウムなしでは生きていけない

細胞を活性化する際に
電気を伝える引き金となるのがナトリウムで

ナトリウムの働きについて説明する図

ヒトの心臓 脳の神経細胞なども
ナトリウムが生み出す
電気エネルギーによって活動している


@少ない塩分をしっかり摂り込める体への進化

しかし 陸上では海の中と異なりナトリウムが足りない

そこで祖先は
塩の味を感じる舌のセンサーが敏感になり
陸上に存在するわずかな塩分でも感じ取って
摂取する能力を進化させた

味を感じる舌の味蕾の数は
魚は200個 人は1万個以上

味蕾の構造を示す図

ヒトは 
ナトリウムの少ない陸上で生きていくために
塩の味覚に磨きをかけて進化を遂げた


わずかな塩分を逃さないために
塩分を感じ取る能力を進化させたというのは
面白いです!

言われてみれば ごもっともなのですが
普通はそんなことは考えつかない

適応や進化の仕組みは
往々にして想定外で驚くことがよくあります


@腎臓の進化

ヒトは腎臓も進化させた

腎臓の糸球体では
ナトリウムはほとんど尿の中に出てしまうが
それを再び血液中に取り戻すという
巧妙な仕組みが備わった

腎臓での再吸収について説明する図

この進化によって
99%以上のナトリウムが血液中に取り戻され
体内には常におよそ200gの塩が
保たれるようになった

1日に体から出ていく塩分は
尿と汗を合わせても たった1.5gほどなので
1日2gの塩分摂取でも健康を維持できる

祖先が陸上進出という大事件を乗り越えて手に入れた

*超高感度の塩センサーの舌

*体内から塩を逃さない腎臓

このふたつの武器によって
祖先はわずかな塩でも生きられる体へと進化した

腎臓におけるナトリウムの再吸収の話は
医学生のときも 研修医のときも
さんざん勉強したので懐かしいですが

当時は 
面白いシステムだと感じていましたが
そうなった原因が
塩分を取り逃さないようにするためだったとは
考えたこともありませんでした

そうだったのか 面白いですね!
高橋医院