病的な線維化が起こる機序
病的な線維化が起こる機序について解説します <病的な線維化が誘導される要因> 病的な線維化の誘導は 持続的な組織傷害により生じますが その原因として以下のようなものがあります @持続的感染 皮膚や粘膜に存在する細菌が 持続的に自然免疫を活性化することで 線維化反応が持続的に促進されます @慢性炎症 肥満 高コレステロール 糖尿病 高血圧 自己免疫疾患 などの主たる病態です @低酸素状態 組織の上皮細胞の筋線維芽細胞への転換が誘導され 線維化が促進されます 繰り返しになりますが 病的な線維化は 正常な組織の間質に細胞外基質(ECM)が 異常に沈着することで起こり それにより組織の構造が破壊されリモデリングが促進され 臓器の機能不全に至ってしまいます <細胞外基質・ECMの分解を制御する因子> @細胞外基質・ECM 間質に蓄積する細胞外基質・ECMは *コラーゲン *フィブロネクチン *ヒアルロン酸 などです @ECMの分解を制御する因子 通常は蓄積したECMは MMP メタロプロテイナーゼらの酵素により 分解が行われます *MMP 活性中心に亜鉛 カルシウムを持つ タンパク質分解酵素で ECM 細胞表面に存在するタンパク質の 分解を行います また サイトカインなどの生理活性ペプチドの プロセシング 活性化も行います 分泌型 膜結合型があり 分泌型は 産生細胞から離れた場所でも働きます 前駆体として産生され 末端のプロペプチド部位が除去されることで 酵素活性を示すようになります 創傷治癒 骨リモデリング 炎症 といった反応に関与します 一方 MMPによるECMの分解を阻害し カウンターパートとして働くのがTIMPです *TIMP 内因性のMMP阻害因子で MMPと複合体を形成して その活性を抑制し MMPによる過剰な組織崩壊を防ぐ働きをします TIMP1~4の4種類があります ECMの過剰な蓄積を防ぐためには MMPによる分解が必要ですが MMPの作用が過剰にならないように MMPとTIMPの作用のバランスが大切になります <ECMの異常蓄積が起こる機序> 前回説明した生理的な組織修復プロセスに異常が起こり ECMを産生する細胞の活性化が持続し 大量のECMが異常蓄積して線維化が起こり 正常組織の構造が破壊されます 具体的には 下記に示すような現象が起こってきます @内皮細胞 上皮細胞の傷害が契機となる 傷害された内皮細胞 上皮細胞は炎症因子を放出し 傷害局所に血小板を凝集させます 血小板は 血管の拡張 透過性の亢進を誘導し MMPを産生して基底膜を融解するので 炎症細胞が傷害局所に集まりやすくなります また内皮細胞 上皮細胞が傷害局所で産生する 成長因子 サイトカイン ケモカインなどは さまざまな炎症細胞を傷害局所に強力に呼び寄せます @血小板 T細胞の関与 次のステップでは 血小板がさまざまな因子を放出して T細胞などの炎症細胞を呼び寄せます 呼び寄せられたT細胞や炎症細胞は PDGF TGF-β IL-13といった さまざまな炎症性サイトカイン 線維化促進性サイトカインを放出します @ECMを産生する筋線維芽細胞の活性化 これらのサイトカインは *組織常在性線維芽細胞 *遊走してきた線維芽細胞やペリサイト などを α-SMA陽性のECMを産生する筋線維芽細胞に分化 増殖させ それらを活性化します こうして ECMが蓄積する反応がスタートします @慢性炎症の関与 繰り返しになりますが こうした過程は あくまで生理的な創傷治癒反応です しかし その制御に異常が生じると ECMの過剰な蓄積が生じて線維化が起こり 臓器のリモデリングが生じ機能不全が起きてきます そこには慢性炎症が関与してきます *慢性化した炎症による組織傷害の持続 *傷害により放出される内因性のPAMP DAMPによる TLRを介した炎症の活性化 *TLRによるTGF-βシグナルの増強 といったことが ECMの過剰蓄積を誘導します そこで これらの反応を形成するさまざまなシグナル伝達経路が 線維化の治療標的として注目されています
高橋医院