慢性炎症から病的な線維化・臓器不全へ
以前 糖尿病 動脈硬化 肥満 脂肪肝など さまざまな生活習慣病の病態に 慢性炎症が関与していることを紹介しました その時に 慢性炎症が持続して 炎症・修復が繰り返されると 組織内で「組織リモデリング」が起こり 機能が低下していくという話をしましたが その「組織リモデリング」について解説しようと思います この慢性炎症により誘導される 「組織リモデリング」の実態は「線維化」という現象です <線維化とはなにか> @炎症の持続により制御できなくなった 病理的な創傷治癒反応 もともと線維化とは 傷害された組織の創傷治癒過程に見られる 生体の適応反応のひとつで 皮膚 肺 肝臓 腎臓 膵臓 心臓など ほとんど全ての臓器で生じます しかし 傷害や炎症が持続すると 生理的な線維化反応である創傷治癒過程が収束できず 病理的な線維化反応が生じてしまいます これが線維化です @制御不能となった線維化反応は臓器不全を導く こうして線維化が起こると 組織が固くなり 組織の機能が低下して臓器不全になります 組織の線維化は さまざまな臓器の終末期に見られる 臓器不全の共通病態なのです @各臓器で見られる線維化 各臓器で生じる代表的な病的な線維化病態は *肺で生じる 肺線維症 *肝臓で生じる 肝硬変 *腎臓で生じる 腎不全 などで 先進国の全死因のうち 組織線維化による臓器不全が 40%以上を占めるとされています ですから 線維化の機序の解明は こうした臓器不全の進展予防や 新たな治療法の開発に重要になります <線維化で起きている現象> 組織の線維化で実際に生じている現象は 慢性炎症により 細胞外基質タンパク(ECM)を産生する筋線維芽細胞が 数が増えるとともに活性化され 臓器の間質にECMが蓄積されていくことです この「過剰なECMの蓄積」が線維化の本態で 蓄積された線維は 正常な組織を破壊しリモデリングしてしまい 組織は固くなり機能を失っていきます <生理的反応としての組織修復> 組織が何らかの機序で傷害を受けると 現場では生理的な修復過程が生じて 元通りにしようとします そこで具体的にどのようなことが起こっているか説明します @傷害部位への免疫細胞の集積 まず傷害を受けた実質細胞が さまざまなケモカインを分泌し その作用により マクロファージ リンパ球などの免疫細胞が 傷害部位に遊走し集積してきます @炎症反応の惹起と組織修復 これら免疫反応の働きにより 組織傷害で生じたdebris(ゴミのようなもの)を 除去する炎症反応が惹起され そうした反応が生じて組織修復がなされます 組織修復過程では 損傷により失われた実質細胞が補充されます この補充は *実質細胞の細胞増殖 *未熟な細胞から実質細胞への細胞分化 により起こります @細胞外基質タンパク(ECM)の蓄積と分解 生理的な組織修復過程においても 細胞外基質タンパク(ECM)は蓄積します 蓄積するECMの代表選手がI型コラーゲンで 活性化した線維芽細胞が産生し 創傷部位における足場として働き 再上皮化を促すなど 組織の修復を行います この組織修復の足場となったECMの分解や 細胞破砕物デブリの除去は マクロファージにより行われます 生理的な創傷治癒反応は 筋線維芽細胞のアポトーシスによる除去により 最終的に終息しますが この過程の詳細は不明です 実はこの点が不明なので 臓器不全を導いてしまう病的な線維化反応の 機序の解明が上手くいっていないのです <組織修復過程の異常から線維化へ> 生理的反応としての組織修復過程の終息に なんらかの異常が起こると 組織の線維化が進展すると考えられています 筋線維芽細胞がアポトーシスに抵抗性になるとなど推測され 組織の線維化に深く関与するTGF-βが 筋線維芽細胞のアポトーシス回避に関わると 推測されています また こうした病理的状態の誘導に 慢性炎症に関わるさまざまな因子が関与しています そして 組織修復に関わる免疫細胞の除去が上手く行われないと 慢性炎症が持続してしまい さらに線維化が促進されることになります 一方で これらの過程を上手く制御できると 病的な組織の線維化が抑制できる可能性があります
高橋医院