新型コロナウイルス抗体に関する話題を続けます

これまでも何回か説明してきましたが
ウイルスや細菌に感染すると
最初にIgM抗体ができて
しばらくしてからIgG抗体ができてきます

IgM抗体 IgG抗体の出現する時期を説明する図

IgG抗体は微生物を排除できる中和抗体中和抗体について説明する
体内ではIgG抗体が長く持続するので
もう一度同じ微生物に感染しても
それを排除できるというのが
感染免疫の常識です

ところが 今週説明したように
新型コロナウイルスのIgG抗体は
感染初期から認められる場合があったり
中和作用を持たない
悪玉抗体の可能性があったりで
曲者な感じがあります


そして ここにきて
新たな曲者要素が報告されました

新型コロナウイルスのIgG抗体は
長続きしないというのです

普通 IgG抗体は長期間存続しますが
持続期間は微生物の種類により異なります

麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)は
一生 抗体が存続します

さまざまな微生物感染における抗体の持続時間を示す表

一方 季節性インフルエンザでは
数ヵ月しか存在しません
毎年インフルエンザワクチンを
接種しないといけないのはそのためです

新型コロナウイルス関連では
MARSは34ヶ月 
SARSは24ヶ月ほど
IgG抗体が存続すると報告されています

MARS SARA インフルエンザの抗体の持続時間を示す表
新型コロナウイルスでは
8例の検討で4例が
感染後4~6週すると
IgG抗体が減少してくることが
既に報告されていました

新型コロナウイルスで半数の症例でIgG抗体のが減少することを示すグラフ

そして6/18のNature Medicineという
かなり格式の高い医学雑誌に
新型コロナウイルスの多くの患者さんで
IgG抗体は感染後8週間ほどで減少する
という検討が報告されたのです

Nature Medicineに掲載された論文の表紙

この研究は
新型コロナウイルスに感染しても症状を示さない
無症候性患者さんの免疫動態を検討したもので
37名の無症候性患者さんと
37名の症状のある症候性患者さんを比較しました

その結果
無症候性患者さんでは 症候性患者さんと比べて

*ウイルスが消失するまでの時間が長い

無症候性患者さんではウイルスが消失するまでの時間が長いことを示すグラフ

*急性期(PCRでウイルスが確認された時期)の
 IgG抗体価が低い(IgM抗体価は変わらない)

無症候性患者さんでは急性期のIgG抗体価が低いことを示すグラフ

*回復期(感染してから8週後)の
 IgG抗体価が低い

無症候性患者さんでは回復期のIgG抗体価が低いことを示すグラフ

ことが明らかにされました

ちなみに 急性期のIgG抗体陽性率は
無症候性患者と症候性患者で変わらず
ともに80%以上と高率でした

急性期のIgG抗体陽性率

初感染では 急性期はIgG抗体は出ないので
この陽性率は高く
一昨日ご紹介したデータに一致します


一方 急性期と回復期を比較すると
IgG抗体は
無症候性患者でも症候性患者でも
多くの症例(無症候性93.3% 症候性96.8%)で
回復期に低下していて

回復期のIgG抗体の低下を示すグラフ

低下率は
無症候性で71.1% 症候性で76.2%でした

抗体の中和能
無症候性患者でも症候性患者でも
多くの症例(無症候性81.1% 症候性62.2%)で
回復期に低下していて

回復期の抗体の中和能の低下を示すグラフ
低下率は
無症候性で8.3% 症候性で11.7%でした

また 
急性期にIgG抗体が陽性だった患者さんの
回復期のIgG抗体陽性率は
無症候性患者では60%
症候性患者では87.1%で

無症候性患者の40% 症候性患者の12.9%が
IgG抗体が陰性化していました

回復期のIgG抗体の陰性化率を示すグラフ

さらに 炎症や免疫反応に関わる
さまざまなサイトカインやケモカインは
無症候性患者では症候性患者より低値でした

無症候性患者ではさまざまなサイトカインやケモカインが低値であることを示す図

ということで
この論文のいちばんのメッセージは
無症候性患者さんでは免疫反応が弱く
抗体もできにくいし
ウイルス排除に時間がかかる
ことでしたが

IgG抗体が8週間で減少するという方が
インパクトが大きいかもしれません

論文の筆者らも考察で
世間ではIgG抗体が「免疫パスポート」として
注目されているけれど
本当にその意義があるのか?いかがなものか?
と問題提起していましたし

免疫パスポートの写真

もし抗体が減少してしまうなら
IgG抗体の有無で集団免疫の状況を評価することも
困難になってしまいます

IgG抗体と集団免疫の関係を示す図

さらに心配なのは
IgG抗体が減少してしまうなら
一度罹って回復しても
また感染して病気になる可能性があることです

どうなのでしょう?

この心配に対する明確な答えは 
まだ誰もわからない

新型コロナウイルスは
本当に厄介な相手かもしれません
高橋医院