前回ご紹介した免疫応答の性差
新型コロナウイルス感染で男性の死亡率が高いことに
影響を及ぼしていると推測されますが

8月末にYaleの岩崎先生のグループが
Natureにこんな論文を出され 大きな注目を集めました

Natureに掲載された論文

この研究では
新型コロナウイルスに感染した98名の入院患者について
入院時および3~7日ごとに検体を採取し

*新型コロナウイルスに特異的な抗体の抗体価

*血中の71種類の各種サイトカイン ケモカインの値

血中の71種類の各種サイトカイン ケモカインの測定結果

*マクロファージ NK Tリンパ球などの免疫細胞の動態

*CD4 CD8などの各種Tリンパ球サブセットの動態

*Tリンパ球のサイトカイン産生動態

免疫細胞の動態 各種Tリンパ球サブセットの動態などの結果

について解析しました

お金もマンパワーもふんだんに使われた
もの凄い力技ですが
研究計画を立てた人は楽しかったでしょう(笑)


で 患者さんと感染していない健常者との差異
男女の患者さんでの差異
軽症 重症の患者さんでの差異
を検討して 次のような結果を得ました


<新型コロナウイルス感染における免疫動態の男女差>

@男女間で差がない項目

診断時のウイルス量は変わらない
診断時 経過中のIgG IgM抗体量は変わらない


@男性で見られた特徴

診断時のIL-8 IL-18などの炎症性サイトカインが高い

男性では診断時のIL-8 IL-18などの炎症性サイトカインが高いことを示すグラフ

単球が活性化されている
経過中のCCL5が高い

これらはいずれも健常人より高く
健常人との差は 男性の方が女性より大きい

また Tリンパ球の低下が見られ
これは加齢とともに増強し 病態の悪化と関連する
こうしたことは女性では見られない

男性ではTリンパ球の低下が見られ 加齢とともに増強し 病態の悪化と関連することを示すグラフ

@女性で見られた特徴

診断時にも経過中にも活性化Tリンパ球が多い
CD4もCD8も高く 特にCD8で著しい

健常女性よりも高く 男性患者よりも高く
この傾向は加齢しても変わらない

女性では診断時にも経過中にも活性化Tリンパ球が多いことを示すグラフ

また
感染初期に自然免疫系サイトカイン量が多い人は
重症化する頻度が高いが
こうした傾向は男性では見られない


以上の結果から

*性差 年齢を考慮した
 治療計画 ワクチン接種回数などを考慮する必要がある

*男性では
 Tリンパ球反応を活性化するワクチンが重要

*女性では
 初期の自然免疫反応を抑制する治療法が必要

と結論しています

面白い結果だと思いますが
うーん この内容でNatureなの?
と 捻くれた書き手は正直言って思いました(苦笑)


<女性の方がワクチンの反応性が良い>

ちなみに
最後にワクチンについて言及されていましたが

女性の方が
ワクチンで免疫系が活性化されやすく
さまざまな感染症のワクチンで
高い抗体価も誘導されやすいことが
以前から報告されています


女性ではワクチンで免疫系が活性化されやすいことを示すデータ

一方 ワクチンの副反応も
女性の方が起きやすいそうです

女性ではワクチンの副反応が起こりやすいことを示すデータ


<どうして免疫反応に男女差があるのか?>

最後に そもそもどうして
性差が免疫反応に影響を及ぼすかについて説明します


@性ホルモンなどの関与

その理由として
性ホルモン 性染色体などの
性差に関わる因子が関与すると考えられています

性差に関わる因子の関与を示す図

性染色体上には
さまざまな免疫関連因子の遺伝子が存在し
女性で優位なY染色体は免疫調節作用を有しています

また最近では
免疫機能に深く関与する腸内細菌叢プロファイル
男女差の関与も推定されています


なかでも いちばん影響力が強いのが
エストロゲン プロゲステロン テストステロン
などの性ホルモン
さまざまな免疫細胞の機能に影響を及ぼします

性ホルモンの免疫細胞の機能への影響をまとめた表
性ホルモンの免疫細胞の機能への影響をまとめた図


@女性の方が感染症になりにくく
 ワクチン効果も強いが
 自己免疫疾患にもなりやすい

一般に 抗体産生作用は女性の方が強く
そのため女性は
感染症になりにくく ワクチン効果も強いのですが

逆に自己抗体も産生してしまい
さまざまな自己免疫疾患を発症しやすい
というデメリットもあります

女性は自己免疫疾患になりやすいことを示す図

@加齢の影響

こうした性差による免疫反応への影響は
加齢によって変化することも明らかにされ

免疫反応の変化には
性と年齢の両方の因子が
関わってくると考えられています


加齢の影響をまとめた図

そこで次回は
新型コロナウイルス感染への年齢の影響について解説します
高橋医院