闘争のジレンマを超えて14
人の生活形式の重要性から 民主主義が持つ欠点にまで 論を展開したガブリエルは ウオール街の最前線の戦略コンサルタントの クリスチャン・マスビアウさんと対談します ガブリエルが対談の相手に選ぶだけあって マスビアウさんは 一風変わったビジネスコンサルタントで 人文科学の専門家たちが築いた集合知を用いて グローバル企業の経営課題の解決を試みています <ウオール街の最前線の戦略コンサルタントが語る現実> マスビアウさんは 語ります 現代社会を牛耳る大手テクノロジー企業の経営の柱となる統計的世界観では 個人は集合体の一部として扱われる 一方 95年以降に生まれた世代の若者は 仕事が増えているにもかかわらず 常に不安を感じている そんな状況を マスビアウさんは 人間の体験を統計で説明できるという考え方が支配し それと戦う日々だと 疲れた表情で語ります リアリティとは 基本的に質的なもので 数字と体験はイコールではない 体験の方がより重要で 数字は体験の一部にすぎない 確かにその両者に相関関係はあるけれど それはとても複雑なもので 簡単には説明しきれない それなのに 心が数字とイコールであるとの思い込みがあり 異なる体験を同じ数字でとらえてしまう ハイデガーは 世界を技術的に見る人には 周りのモノすべてが最適可能な資源に見える と指摘したが 彼は技術というものを まさに正しく捉えている たとえば 神が生まれた神聖な場所であった森は 今や 営利目的で何かを作るための木材の供給源である 現代のビジネスの世界で働く人々は こうした技術的な世界観で人間も見てしまう だから 子供を就職市場に向け最適化しようと詰め込み教育をする ビジネス界では 人間を「人材」と呼ぶ 人材は代替可能で 雇ってもクビにしても一向にかまわない まさに技術的世界観に基づいた考え方だ ハイデガーは そうした世界の到来を予見し 技術的世界観がもたらす結果を恐れていた 彼は 近代技術の本質を「総かりたて体制 Gestell」と表現した 技術の生産へと駆り立てる止まらない歯車により 人の思考が 生産性の視点のみにより支配されている可能性がある これはまさに 全ての人間が消費財となる悲劇に他ならない <闘争のジレンマを超えて> ここでナレーションが入ります 人は社会の複雑さから逃れ 単純明快な価値の尺度を求めたがる それは 人に生きる意味の多様性を味わうことを忘れさせ むしろ苦しみになっているかもしれない 互いを消費しあい競争に駆り立てるものは 自らのうちにある志向である それを認識して闘争のジレンマを超えなければならない 生き馬の目を抜くウオール街で活躍するコンサルタントが こうした話をされたのは驚きでしたが 生々しいリアルな現場で日々過ごされているからこそ その矛盾を強く感じられるのだろうと思いました
高橋医院