AIには知性がないと考える理由15
ついでガブリエルは 現代アメリカの最も面白い哲学者と評する デイヴィッド・チャーマーズさんと AIについて対談します 最近は多くの人が 哲学者にAIのリスク評価を頼んでくるそうです チャーマーズさんはAIについて 人の知能を超えると危険だけれど 今のAIはまだ単純なので そうしたリスクはほとんどないと指摘します 人は既にコンピューター スマホなどの デジタルインフラと融合した生活をしているので AIとの競争を心配する必要はないのではないか? しかし AI技術と融合されれば 人の精神は今よりもっと広がるかもしれない こうしたチャーマーズさんのAI観を受けて ガブリエルは ヘーゲルの客観的精神論について語り始めます ヘーゲルは 国家 会社といった組織は 人の主観的な精神を さまざまな方法で変える 精神はシステムにより左右され 思考は全体に規定されるものだ と指摘したそうです ヘーゲルが指摘したとおりなら SNSをはじめとする新たなコミュニュケーションシステムが 社会に大きな影響を及ぼしている現代では 人の精神の在りようが変化している可能性が大きい ましてや チャーマーズさんが指摘するように AIが人間の精神を拡張するような事態になったら どうなるのでしょう? ガブリエルは問います AIに意識をアップロードすることで不死になることを 多くの人々が願っている 確かに 思考は 脳のニューロンの電気信号のネットワークだから ニューロンをチップに変えて脳を再現することはできるだろう だが 脳を機械でアップロードして デジタル脳で 一生 仮想現実の世界で生きたいか? 遠からず人は それを選択するときが来る そのときに哲学者は非常に重要な役割を担うことになる ガブリエル自身は そうした考え方に否定的です 意識のアップロードには 経験に基づいた証拠がなく 人間に試すのは倫理的に極めて問題がある カトリックの神学者たちも ロボットが意識を持つことについて懸念している 人の魂 意識は アイデンティティなのだから そもそも 脳はAIにアップロードできないだろう AIは有機的なものではないし 今のAIが持つ複雑さ程度では 圧倒的に難しい現象である精神を再現することは難しい さらに ガブリエルの否定的なAI観が続きます シンギュラリティは存在しない AIは真に知的ではないし 人間のレベルに達することは決してない AIは 純粋に数学的な方法でルールに従う 人間が作った効率的な問題解決のための道具にすぎない 自ら問題を発見できないものは ただのモノで 知的な存在ではない AIに知性があると思うのは単なる幻想だ そして AIが持つ最大の問題点のブラックボックス問題について語ります AIが勝手に何かをしたときに 人はその理由を把握する必要がある しかしAIがなぜ機能するかという根本的な疑問が 明らかになっていない AIは ルールで機能しながら 自らランダムにルールを変更できるので知的に見える このランダムなルール変更は 決定論でなく 蓋然性と統計の概念による こうなると 人はAIがどのように機能するか完全に理解できなくなり AIの暴走の恐怖が生じてくる AIを信頼できない理由は 進化の歴史がないこと 生命体ではないので リアリティ 概念を共有できないこと それ自体が全てではなく 何かの一部に過ぎないこと 現実とイメージの間にある違いの感覚を持てないこと 経験主義では リアリティは脳の中で表現されていて 現実そのものを認識することはできないと考える これがAI研究者たちの基盤となるイデオロギーだが 完全なる間違いだ 経験主義の対極にあるのが ドイツ哲学 思想における重要な伝統である観念論で 人は さまざまな感覚の統合化により 一部の理解に基づいて全体の構造を捉えることができる と考える なるほど~ 以前にガブリエルが来日して 阪大のロボット工学の権威の石黒先生と対談したときに ロボットについて否定的な見解をはっきり示していましたが その理由はここにあったのですね! なんとなく納得できた気がします また「AIイデオロギー」の対極に 自らの出自であるドイツ観念論を持ってきたのが面白い AIに疑問を投げかける論は度々目にしますが 観念論のスタンスからの批判は初めて聞いたので ちょっとビックリしました(笑)
高橋医院