ついでガブリエルは
現代アメリカの最も面白い哲学者と評する
デイヴィッド・チャーマーズさんと AIについて対談します

最近は多くの人が
哲学者にAIのリスク評価を頼んでくるそうです

チャーマーズさんはAIについて
人の知能を超えると危険だけれど
今のAIはまだ単純なので そうしたリスクはほとんどないと指摘します

人は既にコンピューター スマホなどの
デジタルインフラと融合した生活をしているので
AIとの競争を心配する必要はないのではないか?

しかし AI技術と融合されれば
人の精神は今よりもっと広がるかもしれない

こうしたチャーマーズさんのAI観を受けて
ガブリエルは
ヘーゲルの客観的精神論について語り始めます

ヘーゲルは
国家 会社といった組織は
人の主観的な精神を さまざまな方法で変える

精神はシステムにより左右され 思考は全体に規定されるものだ
と指摘したそうです

ヘーゲルが指摘したとおりなら
SNSをはじめとする新たなコミュニュケーションシステムが
社会に大きな影響を及ぼしている現代では
人の精神の在りようが変化している可能性が大きい

ましてや チャーマーズさんが指摘するように
AIが人間の精神を拡張するような事態になったら
どうなるのでしょう?

ガブリエルは問います

AIに意識をアップロードすることで不死になることを
多くの人々が願っている

確かに
思考は 脳のニューロンの電気信号のネットワークだから
ニューロンをチップに変えて脳を再現することはできるだろう

だが
脳を機械でアップロードして
デジタル脳で 一生 仮想現実の世界で生きたいか?

遠からず人は それを選択するときが来る
そのときに哲学者は非常に重要な役割を担うことになる

ガブリエル自身は そうした考え方に否定的です

意識のアップロードには 経験に基づいた証拠がなく
人間に試すのは倫理的に極めて問題がある

カトリックの神学者たちも
ロボットが意識を持つことについて懸念している
人の魂 意識は アイデンティティなのだから

そもそも 脳はAIにアップロードできないだろう

AIは有機的なものではないし
今のAIが持つ複雑さ程度では
圧倒的に難しい現象である精神を再現することは難しい

さらに ガブリエルの否定的なAI観が続きます

シンギュラリティは存在しない AIは真に知的ではないし
人間のレベルに達することは決してない

AIは
純粋に数学的な方法でルールに従う
人間が作った効率的な問題解決のための道具にすぎない

自ら問題を発見できないものは
ただのモノで 知的な存在ではない
AIに知性があると思うのは単なる幻想だ

そして AIが持つ最大の問題点のブラックボックス問題について語ります

AIが勝手に何かをしたときに
人はその理由を把握する必要がある

しかしAIがなぜ機能するかという根本的な疑問が
明らかになっていない

AIは ルールで機能しながら
自らランダムにルールを変更できるので知的に見える

このランダムなルール変更は
決定論でなく 蓋然性と統計の概念による

こうなると
人はAIがどのように機能するか完全に理解できなくなり
AIの暴走の恐怖が生じてくる

AIを信頼できない理由は 進化の歴史がないこと
生命体ではないので リアリティ 概念を共有できないこと
それ自体が全てではなく 何かの一部に過ぎないこと
現実とイメージの間にある違いの感覚を持てないこと

経験主義では
リアリティは脳の中で表現されていて
現実そのものを認識することはできないと考える

これがAI研究者たちの基盤となるイデオロギーだが 完全なる間違いだ

経験主義の対極にあるのが
ドイツ哲学 思想における重要な伝統である観念論で

人は さまざまな感覚の統合化により
一部の理解に基づいて全体の構造を捉えることができる
と考える

なるほど~

以前にガブリエルが来日して
阪大のロボット工学の権威の石黒先生と対談したときに
ロボットについて否定的な見解をはっきり示していましたが
その理由はここにあったのですね!

なんとなく納得できた気がします

また「AIイデオロギー」の対極に
自らの出自であるドイツ観念論を持ってきたのが面白い

AIに疑問を投げかける論は度々目にしますが
観念論のスタンスからの批判は初めて聞いたので
ちょっとビックリしました(笑)
高橋医院